[Apex]toon emotions[短編]

citrus you[ブラッドハウンド] ページ8

ファンの方から貰ったのよ、とワットソンは両手で抱え切れないほどのキャンディーをテーブルに並べた。今、とうにゲームは終わり暇を持て余した何人かのレジェンド達はミラージュ、もといエリオット・ウィットの経営するバーに集まっている。Aも試合後の疲労感を少しでも和らげようと、彼らに同行していた。私たちはテーブルの前でカクテルを飲みながら、そのキャンディーを見下ろす。

「素敵ね、あなた愛されてるんだわ」
「レネイこそ！ほらこれなんてあなたのイメージカラーにぴったり、うーん葡萄味かしら……」

宝石のように散らばるキャンディーの一つをつまみ上げると、ワットソンはキラキラと照明に当てる。バーの鈍い光に当てられて、それはよく磨かれたテーブルの上にも反射していた。

「あなたもどうぞA！どんなフルーツがお好みかしら」
「あ……私は」
「遠慮しないでちょうだい、私こんなに食べたら……いくら頭を回したって太っちゃうわ！」

でも、と言いかけた時にワットソンはキャンディーの一つを手に持ち、包み紙を開けてしまった。

「ハイ、どうぞ」
「むぐ」

何か言う前に彼女は私の口に指を突っ込む。ころりと舌に転がって喉に落ちそうになった。慌てて口を閉じて体勢を立て直す。

「美味しいでしょう？ええと、それは……」

ワットソンが包み紙を確認する。ストロベリーね！と言って私の方を見た。口の中では優しい甘味が広がる。まだあるわよ、なんて言って二つも三つも差し出してくるその手をやんわりと断った。

「あら、じゃあ欲しくなったらいつでも言ってね！さあ次はレネイの番よお、口を開けて？」

彼女の次の標的はレイスに移ったようだ。ワットソンは悪戯っ子と化して、レイスの口を開かせようと躍起になっている。

「A、あなたもここに来ていたのか」

ふいに声を掛けられ、振り向く。かつての教官、その人がいて私は何とも驚いた。酒の匂いがする場所になんて、近付くイメージがこれっぽっちも無いからだ。珍しいですね、と飴玉を転がしながら喋る。ぽこりと膨らんだ私の頬を見て、ブラッドハウンドは首を傾げた。

「おや、何か食べていたのか」
「ワットソンに貰ったんです、今彼女に言えば間違いなく貰えますよ」
「ふむ」

何かを考えるようにワットソンの方を見ている。私は頼んでおいたカクテルを口に含みながら、ブラッドハウンドの様子を伺った。

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