[Apex]toon emotions[短編]

crow knows 2[ブラッドハウンド] ページ29

やれやれ、と言った風に私の隣に移ったブラッドハウンドは既に船を漕ぎ始めたアルトゥルを優しく撫でる。普段は外光に反射して見えないこの人の瞳は、部屋の照明の下でははっきり覗くことが出来た。きゅうと柔らかく瞼が閉じたり開いたりする様子をじっと見ていたが、あまりに凝視していた為にすぐに気付かれてしまった。アルトゥルに向けられていた視線がくるりと私に移る。はっとしてすぐに目を逸らすと、この人は悪戯っ子みたいに笑ってこちらに顔を近付ける。

「私を見ていた？」
「………………見てません」
「あなたは後ろめたいことがある時、いつも目を合わせてくれないな」

それが出来たらこんなにも苦労しないのだ。雰囲気が変わったことを察して、少しブラッドハウンドから距離を取ろうとする。しかし、それを防ぐように床に着いていた私の手をこの人は上から押さえた。

「……う」
「また、すぐ逃げようとする」

そのままゆっくりと、この人がこちらに体重を掛けてきていることに気付いた。徐々に後ろに倒されていることにも。これは、いけない。このままでは本当に逃げられなくなってしまう。そう思っている内に、私の体躯はすっかりブラッドハウンドに見下ろされるようになってしまった訳だが。

「ようやく目が合った」

この人は心底楽しそうな表情だ。例えるならずっと追っていた獲物をやっと仕留めた達成感のそれに近いものがある。私の心臓は鳴り止まないし、この人が上から退く気配も無い。

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