toon emotions[ブラッドハウンド] ページ1
第六感というものが、こと戦場においては重要になってくる。経験と共に培われるものだが、それぞれのセンスといったところにも大きく違いは出てくる。ブラッドハウンド……射撃練習場では教官と呼ばれるこの人物は、それについて特に秀でていた。
「背後から来たって気付きませんよ」
教官が足音を消したら虫だって飛ぶのを忘れます、とも付け加える。
「二秒遅れたな。それは本戦では命取りだ。集中なさい。」
あと一秒振り向くのが遅れたら、私は後頭部を撃ち抜かれていただろうな。最大値まで弾を込めたRE-45は大分重い。振り向いて、撃つ。この単純な動作は教官の前だと鉄球が転がるよりも遅くなる。
「あなたの課題は反射神経の強化だ。敵に背後を取られる前によく周りを確認して。追い詰められる前に、こちらから背中を狙うんだ」
はい。返事をする。何度も言われている。わかってはいるのだ。教官に一度教えられたことはその日のうちに手帳に書き込み、繰り返し繰り返しベッドの上で読むのだから忘れるはずがない。
「さあもう一度。私は隠れるから。背後からか、はたまた上からか、敵の銃弾を避ける練習だ。あなたならきっと気付ける。武器を構えて」
私を撃ったっていいから。教官がそっと告げる。撃てるものか。幾夜も眠れぬ日々を過ごしている原因がそれだとあなたは知らない。ずしりと手首をしならすRE-45を両手でしっかりと握る。二回、瞬きをするうち教官の姿は見えなくなっていた。
「……」
練習場の入り口からヒュウと風が吹き込み砂利が舞う。耳を澄ます。四足動物がその前脚で地面を潰して歩くかのごとく、教官の気配は感じられない。手帳にあれだけメモを残しているのに、今は一つ、二つしか思い出せなかった。背後、上、右か、左か、正面から?それはどうだろうか。即座にどの方向へも向けるよう足を開く。武器を構えた両手を下ろすことなく、視線だけで教官の姿を捉えようとした。
「あ……」
上空を見上げる。砂を蹴る音が、僅かだが聞こえた。両手を空に向ける。崖の上から弾を装弾する機械的な音が響いた。いる、上に。高所を取られて勝ち残る試合は少ない。すぐにその場を離れて教官との距離を取った。今度は背後を取られる前に気付くことが出来た。じりじりと、後ろへ下がりながら教官の姿を目で追う。
「つ、う」
一発、肩に刺さった。無駄撃ちをせずに的確に足下を狙い、逃げ場を無くしてくる。リロードの隙を狙い、こちらも銃口を教官に向けた。
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オーキッド(プロフ) - 最高に面白くかつ文才あふれる読みやすい小説でした。ブラハ沼に見事に落とされました。ファンとして続きを楽しみにしております。 (2021年8月19日 18時) (レス) id: 500cf8b735 (このIDを非表示/違反報告)
名無し70039号(プロフ) - ブラハの小説ってすんごいレアだと思うので素敵な作品に出会えて私感激…胸キュンが止まりません!!!!!更新楽しみにしてます!! (2021年6月18日 10時) (レス) id: 6045cd7502 (このIDを非表示/違反報告)
椿麒麟(プロフ) - 体が痺れるぐらいとても素敵なものを読ませていただきました!更新楽しみにしております! (2021年6月1日 7時) (レス) id: 5450775e17 (このIDを非表示/違反報告)
まるきち(プロフ) - ブラハが好きで楽しくきゅんきゅんしながら拝読させていただきました。とても幸せです(*'-'*)更新楽しみにしております! (2021年5月24日 22時) (レス) id: 27e019c0a7 (このIDを非表示/違反報告)
たろう - 3ヶ月程前に見つけまして密かに読ませて頂いておりました。ブラハ大好きなので見つけた時は嬉しくて…読んでみたら私の中のブラハのイメージそのもの!ドキドキしながら何度も読ませて貰っています!お忙しいと思いますが続き楽しみにしています(*´`) (2021年5月23日 20時) (レス) id: b492fc9660 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:無し者 | 作成日時:2021年1月5日 22時