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生徒達でワイワイとごった返す下駄箱前。
パッと自分のローファーを取り出し、ササッと履き替えて外に出た。
まだ正午過ぎの外はポカポカと暖かい春の陽気が充満している。日に当たって居るだけで眠気を誘われそうだった。
こんなに暖かい筈なのに、何だか私の手先は氷のように冷たい気がした。
高一の時も、その前も、ずっとひとりで家から学校までを往復していた筈なのに、未だに少しの孤独感と寂しさは消えてくれない。
歩いていると、余計なことを考えてしまう。あぁ私もなにか部活入ればよかったかなぁ。そうしたら友達も出来て、帰りもひとりじゃなかったのかなぁ。なんて、今思っても仕方ない事をグルグル頭の中で考えてしまう。
こんなことばかり考えていても仕方ない。早く家に帰って、ご飯を食べて、仮眠でもしよう。
ポジティブに考えようとして、私は先程よりも早く足を動かした。
…こんなに焦って早く帰っても、別に家には誰もいないのだけれど。
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「ただいま。」
がちゃりと家の鍵を開け、中に入る。
しんと静まり返った家の中。やっぱり誰もいないか、なんて分かりきっていたことなのに少しだけ残念な気持ちになった。
ローファーを脱ぎ捨て、リビングに上がる。
綺麗に整頓されたリビングは、朝私が家を出た時のままの状態が保たれていて。唯一、ダイニングテーブルの上に、朝は見なかったメモ帳が置かれているのが見えた。
”Aへ
母さんの調子が悪いので、また暫く家に帰れません。何かあったら連絡を。 父より”
少しだけ崩れた字で書かれたその文面を見て、あぁお父さん帰ってきてたんだ、という気持ちと、あぁまた入れ違っちゃった、という気持ちが交差した。
母親は身体が弱い。私が生まれるずっと前から弱かったのだが、私を産んだことで急激に悪化したらしい。ずっと入退院を繰り返しながら生活をしているせいで、母親と過ごした幼少期の記憶はほぼ、病院内での記憶しか無かった。
そんな母にゾッコンの父は昔から母を第一優先する為、私のために時間を割いた事はほぼない。夏休みにどこかへ連れていってくれたことも、誕生日にご馳走を食べさせてもらったこともない。小学校の運動会も、中学校の文化祭も、全部父は母を優先して来てくれなかった。
もう、１ヶ月以上まともに顔も見ていない。
「…進級おめでとうくらい、言ってくれてもいいのに。」
なんて呟きは、静まり返ったリビングに響いて、静かに消えていった。
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作者名：Key | 作成日時：2021年7月12日 1時
