フリージア (ページ8)

今日:32 hit、昨日:49 hit、合計:16,684 hit

煙（ﾘｸｴｽﾄ）ページ8

後輩芸人の女の子×shnさん

.

今日もウケなかったな。

煙と共に吐き出した独り言は、喫煙所の淀んだ空気に溶けていった。

春で芸歴8年目を迎える私だが、ここ最近どうも調子が悪く、芸人として生きていく夢を諦めようか悩んでいる。

この悩みのせいで相方とあまり息が合わなくなったし、ついには「今のAにはやる気が感じられない」とまで言われてしまった。

辞めるなら今なのかなあ、と冴えない頭で考え事をしているとしばらくして見慣れた顔の彼がやってきた。

「おつかれーい」

「お疲れ様です。すみません今出ますね」

「ええよええよ。ここにおって」

「...じゃあ、お言葉に甘えて」

「よっしゃあ」

嬉しそうな顔をして煙草に火をつけるしゅんさんは、こんな自分のことを可愛がってくれている気前のいい先輩だ。
彼の前だと、私もすごく落ち着いていられる。

...そんなしゅんさんになら、この悩みを相談出来るかもしれないな。
そう思い、ゆっくり口を開く

「少し相談があるんですけど、」

「俺でよければなんでも言うて〜」

「実は、芸人辞めようかなと思ってて。」

「…は、なんで？」
今までに聞いたことのない低い声がして、緊張が走る。

「同期がどんどん売れていってる中、何も結果を残せない自分が嫌で仕方ないんです。」

「相方にもいっぱい迷惑かけてるし。そんな自分が芸人でいる意味ってあるのかなぁ、って」

私の幼稚な考えに呆れたのか、しゅんさんからの返答はない。
...またひとり、信頼できる人を失っちゃった。

ショックで沈黙していると横から微かに鼻をすする音が聞こえて、反射的にそちらを見てしまう。

しゅんさんは、私の隣で涙を流していた。