フリージア (ページ14)

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202×年、×月×日の19時50分

約束の時間の10分前。
彼が東京へ行く日の朝、渡されたメモ通りに
私たちがよくデートした公園で貴方を待つ。

あの後、彼は本当に売れて
今やテレビで見ない日はないくらい人気者だ。

けれど、一度も連絡はしなかった。また、瞬もしてこなかった。
彼はただ忘れているだけかもしれないが、私はこの約束だけを頼りに今日まで生きてきた。

いよいよ20時。緊張で心拍数が上昇する。

髪型変じゃないかな？
やばい、鏡持ってない。
リップだけでも塗り直すか。

夢中で鞄を漁っていると、後ろから懐かしい声がする。

『随分慌ててんなあ』
「え、」

声の主を見ると同時に、言葉に詰まった。

『迎えに来たで』
「...瞬」
『収録押してて遅なった。ごめん』

「瞬だー！！！！！」
私は周りの目など気にせずに彼に抱きついた。

『A、なんかちいさなった？』
「瞬が大きくなっただけじゃない？」
『せやなぁ笑何年ぶり？』
「分からん！そういうの、考えなくてよくない？！」
『んふ。ほんま変わっとらんね、Aは』

ふにゃふにゃの笑顔で私を包んだ貴方も、変わってない。

私の自宅に着いてからは色々な話をした。

瞬の先輩のこと、後輩のこと、荒川ちゃんって子が私に会いたがっていること。

私の職場のこと、趣味のこと、実は公園に行く途中でナンパされたこと。

しばらく話しているうちに熱が入って、本音がこぼれる。

「私たちはさ、これからも変わらずにいようね」
『うーん。恋人って部分だけ変えよか』
「えっ？」

困り顔の私を見て、瞬は微笑んだ。

『恋人じゃなくて夫婦にしよ、夫婦』
「……それって」

『おれと、結婚してくれませんか』

私の単純さは本当に昔から変わっていないらしい。
でも、それでいいのだ。

YES以外の選択肢なんて要らないし、知らないから。
そんなことを考えながら、指輪を受け取った。