にぶ野郎、どん感につき。 (ページ14)

今日:2 hit、昨日:14 hit、合計:15,435 hit

3 ページ14

「……………」

『かっこいいじゃん、彼氏？』

守沢を見ながらそう呟く友達の言葉が脳内を木霊し、廊下や階段を駆ける私を錯乱させた。

彼氏。

恋人だと、思ったのだろうか、友人は。

守沢の姿が浮かび、私の立場から見れば、彼氏なのだと。
その単語が、彼の肩に乗っている想像をしてしまった。

「う」

あまりにも、不釣り合い。

＿＿＿＿＿だが不思議なことに、それが自然な気もした。

思えば中学の時でも、高校生になった時でも、守沢に対してはなんら特別な感情は湧かなかった。
なぜだろうか。それはおそらく、互いが自分都合な関係だったからだ。
互いに好きな話を好きなだけして、分かり合う感覚が楽しくて話していたに過ぎなかったからだ。

そこに不意に、『彼氏』という名目が飛び出す。

私たちの関係に、天と地ほどかけ離れている言葉なのに。
何故か＿＿友達と話したあの時、私は、感じたことを指摘された、つまり、『図星』を突かれたような感情に陥ったのだ。

「＿＿＿＿＿」

急いで守沢の元へ駆けつけていかなければならないのに、脚の動きが昇降口の前で止まった。

守沢に対する、感情の芽を感じ、その場に座り込みたい気持ちに駆られる。

顔面に皺を寄せ堪え、吹っ切ったように顔を上げ、靴を履き替えるまでの勢いを保って走り出した。

「…………守沢！」

気持ちを切り替えるようにして手を上に、守沢に声をかける。
制服の違う男子生徒は、周りの視線を独り占めしていた。

「おっ、A、早かったな！」

「ごめんねほんと。ありがとう拾ってくれて」

「はっはっは！お安い御用だ！ほら、約束のものだぞ」

キーホルダーを手渡され、受け取った後は何度も頭を下げ続ける。これでもかという程に、受け取ったキーホルダーを握りしめた。