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「昨日の特番見たかっ?」
「もー当たりまえじゃ〜ん!」
「レッドが覚醒するシーンは何度観ても良いと思わないか!?」
「わかるわかる!あのさ、ブルーがレッドを庇うシーンで____」
朝の約束はしているわけではないけれど、決まって会っては大好きな戦隊ヒーローの話で会話に熱が入る。
青年期からの付き合いというのは、絶えることを知らないのだろう。私たちの間には、およそ五年間もの腐った縁が存在している。
そして今は、互いに高校二年生。
中学と比べて会話が大人びることはなく、ただ互いの嗜好を分り合うためだけに対話する関係。学校は違えどたわいない。
事情を知らない他人から見れば不思議に思うだろう糸について、私たち自身、なにかせ思わなかった。
「ん?なんだ、新しいキーホルダー買ったのか?」
「!そう!これ!ふふん、いいでしょ?」
鞄に吊るされた、『仮面ライダーBLACK』のスリムなフィギュアを指さされ、よく見えるように目の前に出して見せた。
「ははっ、Aは本当に好きだな、BLACK」
「当然っ!BLACKは私の人生の一部と言っても過言じゃない!」
「特撮に対するそのひたむきな姿勢、敬意を表せざる得ないな!」
「やだなぁ、守沢だって負けてないじゃない」
「よく見せてくれないか?」
「うん!」
鞄の紐からBLACKを離し、守沢に手渡す。
フィギュアの細かな構造について逐一称賛する守沢の話に頷いている途中、数学の課題が出ていることを思い出した私は酷く大きな感嘆詞を出した。
「び、びっくりしたっ…!どうした!?」
「今日数学の宿題が出てたの!朝学校着いたらやろうと思ってたの忘れてたッ!」
「家ではやらなかったのか?」
「ノートと教科書学校に忘れちゃってたの!」
私の言い訳に守沢は「なるほど」と言う。
キーホルダーは私に返され、もらった私はそれを手に自転車を走らせた。
「すまん守沢!先行ってる!」
「ああ、気にするな!焦って転ぶなよっ!」
「へーきへーき!じゃーねー!」
その後、すぐ見えた赤信号の前で立ち止まり、鞄の紐に大好きな彼を括りつけた。
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作者名:5674C | 作成日時:2022年7月18日 18時