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洗面所までずるずると引き連れて行かれそうなのをなんとか説得して振り払った後、千秋は一人黙々と準備に勤しみ、玄関までたどり着いた。
最近はこんなことばかりだから、朝は早起きしようなんて馬鹿みたいなことを約束し合っている。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
首に腕が巻き付き、強く抱きしめられる。
抱きしめ返したその後真正面に顔を近づけられ、呆ける暇もなく千秋が唇を重ねてきた。
「ふふ、離れられなくなってるじゃん」
「分かるか?」
熱を帯びた視線同士が時をじっくりと刻む。
Aは千秋の売りである端正な顔を手の平で包み、優しくキスを仕返した。
「…仕返しなんて、初めてだな」
「んーそうだったかな」
Aの返答に千秋は幸せそうに顔を俯けて軽く吹き出した。
もう一度、今度は優しく抱きしめる。
千秋の暖かい体温がAの体に染み渡ってくる。
離れたくない。
そんな真っ直ぐな気持ちが二人の間で流れ込み、互いを抱きしめる力が増した。
永らく一緒に住んでいるのに、まるで再開したてのような、そんなお気楽な調子だ。
「玄関は、やっぱりいいな。Aが、俺と同じ目線にいる」
「………ふふっ」
玄関には家屋に続く段差があり、Aがいつもより背が高くなる。同じ目線に立てることを、Aも千秋も喜んでいた。
時は無常なり。
千秋は惜しみながらも、帽子の鍔を摘んで「いってきます」と手を振りだした。
「いってらっしゃい」
Aは千秋に手を振りかえした。
互いに挨拶の交わし合いが二回目であったということは全く気に留めない。
二回言いたい。ただ、それだけ。
Aは玄関扉から踵を返し、リビングに戻った。
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5674C(プロフ) - Umiさん» 嬉しいです!ありがとうございます!! (2022年3月4日 10時) (レス) id: e6d0696709 (このIDを非表示/違反報告)
Umi(プロフ) - めっちゃキュンキュンしてしまいます(˶'ᵕ'˶) (2022年3月3日 16時) (レス) id: a9ba311e8f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:5674C | 作成日時:2021年11月17日 2時