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「…ただいま」


その日の夕方、赤いランドセルと純白の広鍔帽子を玄関のコート掛けハンガーにかけ、搾りかすのような音量でそう言った。


「おかえり、A」


母だ。もう古い記憶だが、若くて、知的な顔立ちをしており、近所の人からの評判も良かった。
そんな、自慢の母親であったはずである。


「早く支度しなさい。これからスイミングスクール行くんだから」


母は教育熱心な人だった。

私を産む前から、私を社会に出ても困らない人に育てようと決めていたのだろう。

予め決められた母のルールや私のスケジュールは、今思えば緻密で、過酷なそれそのものだった。
月曜日から日曜日まで、休み無く埋め尽くされた予定。当時の私はそつなくこなしていた。

出生場所の運勢は、後になってみなければ分からない。私の場合は悪魔の悪戯が過ぎたのだろう。

この状況が、『普通』である、と思っていた。

母の希望を叶えれば、母親が喜んでくれる。思い通りにすれば、笑ってくれる。褒めてくれる。

それが、『普通』なんだと。


当時の生き甲斐は、母親の心情そのものだった。

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5674C(プロフ) - Umiさん» 嬉しいです!ありがとうございます!! (2022年3月4日 10時) (レス) id: e6d0696709 (このIDを非表示/違反報告)
Umi(プロフ) - めっちゃキュンキュンしてしまいます(˶'ᵕ'˶) (2022年3月3日 16時) (レス) id: a9ba311e8f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:5674C | 作成日時:2021年11月17日 2時

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