神隠し (ページ1)

今日:12 hit、昨日:12 hit、合計:132,371 hit

始まりページ1

your side

A「うわぁ…。ズボン破けてないよね…。」

家に帰る道すがら、服の汚れをはたき落としながら早歩きする。

仕事終わりにだというのにとんだ災難だった。

-----------------------------------

社会人になって一年。

よく社会人になることができたな、と自分でも感心する。

私はいわゆる「半妖」という存在。

物心ついた時から父はおらず、母にそう告げられたのは５歳の時だった。

私の記憶にはないが、真っ黒な空気の球に襲われたと言って泣きながら帰ってきたことがあったらしい。

その日の晩、５歳にして私はただの「人間」ではないことを伝えられた。

５歳児にとってはショックを受けるには幼なすぎたため、そういうもんだと受け入れてきた。

その日から、私はとにかく妖怪と思われるものには極力近づかない、逃げる、人間の人ごみに紛れる、という対策を取ることで何とか大学まで通い、社会人になることができた。

思春期には普通じゃない自分の生まれを恨んだりもしたが、いつも守ってくれた母には感謝してもしきれない。

こんな生活をしてきているおかげで、多少なりともそういう気配を感じとることはできるようになったし。

だからこそ、今日は油断していた。

仕事の帰りにちょっとした小物妖怪に足を引っかけられ、盛大にこけたのだ。

小さい頃からよくいたずらはされていたが、都会に出てきてからはこんな小物妖怪を見かけることはあんまりなかったのに。

周りから見ると何もないところで急にこけた人に見えるだろう。

ふと自分が目立っていることに気づき、恥ずかしさからすぐ立ち上がり、家に続く路地までそそくさと走った。