照くん、離れてください！ (ページ10)

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「いらっしゃいませ………あ、Aちゃん」

私の姿を見るなり、いつもみたいに優しく微笑んでくれた阿部くん。

「来てくれたんだ。お好きな席どうぞ。」

エプロン姿で、グラスをピカピカになるまで拭く様は、まるで映画の主人公みたい。

『…ここでもいい？』

決して広いとは言えないけど、テーブル席じゃなくて、阿部くんとお話出来るように、カウンターに座る。

「うん。ていうか、俺も願ったり叶ったり。」

メニュー表取ってくる、そう言って奥へ行った彼。

…願ったり叶ったり、か。

そういえば、私をここに誘ったのも、阿部くん…

…ん？てか、なんで阿部くんが働いてんの！？

「…はい。あ、この日替わりのブレンドっていうのは、」
『何で阿部くんが働いてるの？し、知り合いのお店って…！』

少し身を乗り出して口早に聞けば、少し気まずそうな表情。

「…あ…ごめん、ちゃんと話してなかったね。

……実は、俺、」
「おっちーーーーーーー！！！！！！」

からんころん、と、気持ちのいい音をかき消すボリュームで聞こえたいつもの声と、だいぶウェットなピンク髪。

「いやーーーゲリラやられちゃってもう最悪……ってえ！？！？Aちゃんじゃん！」

いつもと雰囲気違うねえ〜！なんて、ケラケラ笑って、
ちゃっかり私の横に座る、佐久間先輩。

濡れたせいで、いつものお花の香りはだいぶ薄れてる。

…っていうか、雨、降ってるんだ。

「ごめん！佐久間呼んだの忘れてて…」

こてん、と頭を傾けて謝る阿部くんに、

「何だよ！なら暇だから来いなんて言うなよ！」

と、また大声で言い返す佐久間先輩。

「阿部ちゃんって優秀なのにそういうとこ甘いよねえ」
「あなたに言われたくありません」
「まあそんな阿部ちゃんのおかげでAちゃんにも会えたし？俺超ラッキー」
「おい堂々と口説くな！」

ニコニコしながら私を見つめる佐久間先輩と、
阿部くんが淹れてくれるコーヒーの香ばしい香り

『…超ラッキーです、私も』

無意識に、そう呟いていた。

さっきまでの騒がしさはどこへやら、
静まり返った店内には、マシーンの機械音と、
土砂降りの雨の音が響く。

「…なんかあった？」

先に口を開いた佐久間先輩が、肩に手を置き、心配そうな顔で私を覗き込む。

「俺が誘ったの。話、何でも聞くって。
でもまずは…俺からでもいい？」

頷くと、また柔らかく微笑んで、

OpenをCloseにひっくり返した。