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どうぞ、と、通された彼女の部屋。
女の子っていえば…そう、なのかもしれないけど、
俺が抱いてたAのイメージとは、ちょっと違う。
間接照明だけなとことか、
癖で…、なんて気まずそうに灯した、
バニラの香りのするキャンドルとか、
洋書だらけの本棚とか、
誰に貰ったんだか、年代物の赤ワインとか、
なんつうか……、
こんな、大人っぽかったっけ……
『ねえ照くん、コーヒー飲める？』
俺を見上げるA。
…Aって、こんなちっちゃっかったっけ。
『…ひかるくん？』
「可愛すぎた。…ごめん」
我慢できなくて、胸の中に仕舞い込んだ。
「ていうか、病人じゃん。病人は大人しくしてないと。」
『けど、照くん、せっかく来てくれたから』
「いいの。…最初で最後にするつもりだし。」
わかってるよ、Aの考えてることなんて。
俺を部屋に誘ったのも、
話をしようと言ったのも、
明日から、もうなかったことにしようとしてるのも、
全部、俺に振らせるためだろ。
彼女の脚を片腕で支え抱きかかえると、
その軽さに、胸が苦しくなる。
びっくりした彼女を嗜めながら、ゆっくりとベッドに降ろした。
窓辺から差す月の光に照らされて、
陶器のような肌が透き通り、
真紅に染まった唇は、まるで血の様。
「…なんでそんな恥ずかしがってんの」
好きなのは俺じゃないでしょ。
さっきだって、同じこと、されてただろ。
「…かっこよかったな、目黒」
その瞬間、俯いてた彼女は、
潤んだ、熱を帯びたその瞳は、
俺の目をしっかり捉えるけど、
…いまいち感情が読めなかった。
「好き、なんだろ。目黒のこと。」
俺は、今、ちゃんと笑って誤魔化せてんだろうか。
「っていうか…もう付き合ってんだろ？」
だから、早く、言ってよ。
俺がちゃんと、諦められるように。
『…なんで…』
さっきまで潤んでいた瞳は、
段々と琥珀色に変わり、
『…そんなこといわないでよ、勝手に決めつけないでよっ、
ひかるくん……っ、』
吸い込まれそうなほどに綺麗な色に変わった瞳から、
ぽろぽろと、見たこともない、漆黒の液体が溢れ出した。
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作者名：夜永。 | 作成日時：2021年1月26日 2時
