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『はっくしゅんっっ!!!!』
「…吸血鬼は風邪ひかないからって豪語してたの、どこの誰でしたっけ?」
『…あべくんうるさ、っくしゅん!!!!』


あの日の夜。
帰り際になっても雨は上がらず、


「Aちゃん、本当に傘、いいの?」

阿部くんの厚意を断って、照らされた夜道を歩き出した。


実際、雨に濡れながら帰るのは好きで、
人間みたいに体温はそこまで高くないから、雨に濡れて身体が冷えるなんてことはほとんどない。




はず、だったのに。




「もしかして、佐久間さんのために嘘ついたの?」
好きになっちゃう〜!なんて、
目の前で語尾にハートマークつけてしゃべるピンクのオタクに、深いため息をつくインテリくん。


「免疫弱ってんじゃねえの?お前」

…と、横にいる、元凶テクノカット馬鹿。





『そんなことないもん。ごはんたべてるし』
「どうせゲロみたいなシリアルだろ」
『ゲロっていうなばか!…っくしゅん!!!!』


…でも確かに目黒の言うことは一理あるかもしれなくて。

照くんとのことがあってから、ない食欲がもっと減った。



こういうのって、恋煩いっていうんだっけ。

なんか、頭がぽーっとしてきたなあ…。



「Aちゃん、昼飯がチョコとミルクティーとかなんだよ?だから俺ずっと心配してたじゃん〜」
「ええっ!?いや、それは俺も感心しないなあ…俺もお菓子作ろうか…」


阿部くんと佐久間先輩の声があまりよく聞こえなくなってきて、

あれ?変だなあ、なんて、違和感を感じてからほんの数秒のこと。




「A!!」

ぐらり、視界が揺らいで、
椅子から落ちそうになった私を目黒が支えた。

「Aしっかりしろ」


…で、これから起きることは、
絶対に誰にも見られちゃいけないこと。



彼が飲んでいた炭酸水を口に含むと、頭を優しく支え、
唇に押し当てて、それを流し込んでいく。



ゆっくり、ゆっくり、私が溺れないように。






栄養不足に陥った仲間には、こうやって血を分け与えていたらしいけど、
今はこうやって、血の代わりに体液を分けるのが主流。


…まあ、人間から見たら、ものすごい絵面なのはわかってる。

だから誰にも見られちゃだめだったのに。



「…大丈夫?」

ゆっくり頷けば、身体がふわりと浮いた。



「保健室連れてくんで。じゃ。」



そのまんま、ものすごい人だかりを抜けていく。





はっきりとしない意識でさえわかったのは、



甘い、甘い、チョコレートの匂いだった。

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作者名:夜永。 | 作成日時:2021年1月26日 2時

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