照くん、離れてください！ (ページ11)

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湯気と共に鼻を掠める、コーヒーの香り。

「これでも飲んで落ち着いて聞いて。
…あ、シロップ、これ、全部使ってもいいから」

甘党なのを見透かされたかのように、ピッチャーと一緒に差し出された。

「…んと、まず、俺が嘘ついた理由。その１。」

そう言って、カウンターの下から取り出した、小さな白い箱と、赤いリボン。

「見覚えない？」

『……えっ、まさか、…マカロン、』

呆れたように笑って頷くと、差し出した彼のスマホには、
照くんが一生懸命にお菓子を作っている姿が写ってた。

そんな…なんで……

もっと早く言ってよ阿部くん！！！！！！
腐る直前まで取っておくわ！！！！！
なんなら腐ったって食べられるわ！！！！！！！
通りでおいしいわけですわ！！！！！！！！！！！

「えっこれ全部照の手作りだったってこと！？やっばぁ！！Aちゃんのこともう愛してんじゃん！！」

「そうだね笑、もう大好きじゃなくて愛してるね笑」

"愛してる"

その言葉を耳にすれば、
火照った頬を涙が伝いそうなのに、
絶対叶うことのない想いに、出るのは溜息だけ。

▶︎

「ひかるーできたー？…お！いいかんじじゃん！」

「まじ？いいかんじ？」

「ちゃんと砂糖の分量10倍にした？」

「当たりめえだろ！甘いの好きなんだぞ！

……でもさー、」

「んー？」

「…気持ち悪りぃとか思われねぇかな、こういうの」

「いや思われないよ、それに、ひかるが作ったって知ってるの俺だけだし、言わないよ誰にも」

「阿部言ったな！？誰にも言うなよ！？」

「ハイハイ笑、ひかるマジすぎ笑」

||

「ははあん、だから知り合いの〜とかって嘘ついたのか、照がここでAちゃんへのプレゼント作ってるのバレちゃダメだから」
「…まあ、約束破っちゃったけど、…ってことだから」

おいしかったでしょ？、なんて、阿部くんみたいにまたこてんって頭を傾けて笑うような余裕なんてなくて、

シロップでひたひたにしたコーヒーを一気に飲み干した。

「でもさー、マスターのレシピ、ちょっとやりすぎじゃね？」
横でさっきの動画を観てた佐久間先輩が、眉を顰めて頬杖をつく。

「砂糖10倍って、いくら甘党のAちゃんでも…」
「それが丁度いいんだよ、Aちゃんにとっては」

ね？、ってまた頭をこてんと傾けるけど、
その目の奥は真っ直ぐ私を捉えていた。

「俺が嘘ついた理由、その2。

…俺ってどんな匂いなの？教えて？

吸血鬼さん？」