97話( ・∇・) ページ25
「…好きだよ。」
耳元で囁いた言葉は、ちゃんと届いただろうか。
お互いに触れた部分から感じる鼓動は速い。大して変わらない身長差がもどかしくて、つい力を強くしてしまう。
「…あ、赤司君…?」
震え交じりの声が俺の首元をくすぐる。腕を解き、顔を見合わせた。
言うまでもなく真っ赤な顔をした彼女に、俺はもう一度言った。
「一条さん。君のことが好きだよ。」
彼女の瞳が潤む。その中に映る俺の顔も赤く染まっていた。
「…私…わたしも…」
彼女は俺のシャツの袖を強く握る。声と同じように体も震えている。
「わかってるよ。」
彼女が俺に伝えたいことはわかってる。
「でも、ごめん。駄目なんだ。」
俺たちふたりには壁がある。社会という壁。そして親という枷が進むことを拒む。
良い人間になるには、良い身分の人間と関わり、私欲を表に出さないこと。
父親からの教訓だ。この教えのせいで俺は沢山のものを奪われた。友達、仲間、出会い。
そして恋。
芽生えた感情も、開花させる間もなく枯れていく。良い人間へと一歩踏み出すと、ひとつ大切なものが消えていく。
繰り返していた俺にはわかる。
俺は一条さんが好きだ。でも、それ以上にはなれない。
「赤司君。」
切なげな瞳が俺を射る。駄目なのに、その瞳が俺をまともでいさせてくれない。
真っ直ぐで迷いのないその瞳に、いつでも俺は負けている。
「私ね。赤司君のことが好き。世間体がどうだとか、私だって怖い。今までの教えを裏切ることになるから。」
彼女は壁を叩いている。二人の間にそびえ立つ壁をただ眺めている俺の向こうで。
「でも、それでも私は赤司君が好き。お父さんが許してくれないなら私が言いに行く!」
鎖を、鉄格子を叩いて壊してどんどん近づいてくる。
「枷に足を取られて進めないなんて悲しいよ。私も赤司君も、自分の人生は自分のものなんだから。」
俺の冷たくなった手に触れた。暖かい手。
真っ直ぐな瞳の中の俺は、迷いのない表情を浮かべた。
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あおインコ(プロフ) - あやの♪さん» ありがとうございます!!まさに青春です…。もちろん精一杯楽しみたいと思います!!これからもよろしくお願いしますm(*_ _)m (2017年4月8日 7時) (レス) id: 2941e47bdf (このIDを非表示/違反報告)
あやの♪(プロフ) - 高校進学おめでとうございます!青春真っ只中って感じですね(*´∀`*)高校生活楽しんでくださいね! (2017年4月8日 1時) (レス) id: ece222c786 (このIDを非表示/違反報告)
あおインコ(プロフ) - あいさん» コメントありがとうございます。待っていてくださり本当にありがとうございました。これからまた更新再開しますので、よろしくお願いしますね(*^^*) (2017年3月2日 14時) (レス) id: 2941e47bdf (このIDを非表示/違反報告)
あい - 長文でごめんなさい。 (2017年3月2日 1時) (レス) id: 65300ee319 (このIDを非表示/違反報告)
あい - なんか僕が読んでるやつに更新停止の作品が異様に多いきがしてならないのですが。しかも受験生が多い!とまあ、愚痴はこれぐらいにして早く復帰してくださいね。結構夢主と及川さんの絡みが好きなので!待ってます! (2017年3月2日 1時) (レス) id: 65300ee319 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおインコ | 作成日時:2016年7月14日 18時