名前のない夏.2 ページ25
「はい、これ…風に飛ばされてただろ？」
ぽたぽたと髪の毛から水滴が滴っている。帽子からもそうだけれど。
私より幾ばくか背の高い彼は
「せっかく海に来たのに、残念な思いはしたくないもんな！」
と白い歯を見せてにかっと笑う。なかなか美形な彼にどこか兄らしさを感じた。
『あの…わざわざありがとうございます』
帽子を受け取り、お礼を言うと
「気にしなくていいぞ！そんなことよりも海を楽しんでってくれ！」
そう言って親指を立て、サーフボードを抱えて波をかき分けて行った。
じわりと海水の染みる麦わら帽子に、そうそうない思い出が刻み込まれた。
次の日
両親は
「ラブラブデートよ♡」
とか言ってどこかに行ってしまったので、私は水着の上にワンピースをはおり、タオルを持って昨日と同じ砂浜へ向かった。麦わら帽子はおいて。
思った通り、岸から少し離れたところで軽快な声がする。帽子を拾ってくれた彼は、昨日と同じように波に乗っている。
ワンピースをするりと落とし、すぐ側の木陰に畳んでおく。
タオルも置いて、白い貝殻が点々と落ちているのを横目にかわいた砂浜を歩いた。
私も砂も濡れていないから、焼けた砂はさらさらと私を避けていく。
熱される足を早く覚まそうと海へ急いだ。
ぬるいような、冷たいような海水に足先を入れると真水ではない感触が刺激する。
足元の砂はしっとりと私の足型をとり、布を縫うかのように小魚が泳いで逃げていった。練りあんのような砂の感触を楽しみながら深い方へ進んでいく。
胸元当たりのところでそっと潜った。
まるで晴れの日の空のような、人の気配を感じない、蒼い碧い世界を息の続く限り泳いでいく。しゅるしゅると海水が私を避けていくような流れの心地良さに身を委ねた。
突然、足元がバックリと割れたように深い場所が顔を出す。その先は1層蒼く碧く見えた。
重力に逆らわず沈もうとするものの塩分濃度が高いのかあまり沈まない。
コツ…コツ…と巻貝たちの音を楽しみながら水面を見ると、白い波とサーフボードが見えた。
少なくなった酸素を求め本当の空を目指して上へ行く。ぷは、と水面から顔を出し、透き通った空気を吸い込む。
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ぴー(プロフ) - ありがとうございます！ (2018年11月6日 22時) (
レス) id: e7c4929f27 (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - ぴーさん» 了解しました。どう掲載するか等検討致しますので、しばらくお待ちいただけると幸いです。 (2018年11月6日 20時) (レス) id: 5a32253be5 (このIDを非表示/違反報告)
ぴー(プロフ) - 名前のない夏の綱海sideがみたいです！お願いします！ (2018年11月5日 18時) (レス) id: e7c4929f27 (このIDを非表示/違反報告)
透(プロフ) - 宮さん» 読者の皆様にどう思われているか心配でしたので、そう言って頂けてとても有難いです。これからもよろしくお願いします。 (2018年8月29日 16時) (レス) id: 5a32253be5 (このIDを非表示/違反報告)
宮 - 解説の基山ヒロトの解釈がとっても合っていました。基山ヒロトは基山ヒロトなんですよね…！凄くわかります！他のお話も凄く素敵でした。きらきらと美しくて、まるで夢を見ていたようでした。素敵なお話をありがとうございます！ (2018年8月29日 10時) (レス) id: d974ddd08e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：透 | 作成日時：2018年7月9日 20時
