【TREASURE】【短編】その壁の向こう側 (ページ1)

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ほんの小さな溜息が出た。

ああ今ひとつ小さな幸せが逃げた、などとくだらないことを思いながらドヨンはホテルの部屋のインターフォンを鳴らした。すぐに中から訪問者を歓迎するようなパタパタという軽やかな足音が聞こえてきて、ドヨンはまたひとつ溜息を吐き出してしまった。
　

その溜息が周りの空気に溶け込むように消えると、部屋の中から開錠するカチャリという音が上がる。それとほぼ同時に扉が向こう側へ開き、そこから満面の笑みのジュンギュが現れた。

「マシホ！」

しかし呼んだ名前とは違う人物がそこにいて、ジュンギュの顔から笑みが消えた。ほんの一瞬のことだったが。

「マシホヒョンと部屋変わった～！」

消えたジュンギュの笑みの分まで上乗せしたように、ドヨンはおどけたように明るくそう言ってジュンギュの脇をすり抜け部屋の中に進んだ。