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三十一食目 ページ32

A side.




伊黒さんが、ゆっくりと包帯を取っていった。


端正な顔が露わになる。




その口元には、大きな傷があった。




ズキン、と胸が痛む。


苦しかった。


その傷跡に刻まれた苦しい過去が、まざまざと目に見えたから。





そんな苦しい過去を背負った伊黒さんの悲しげな瞳が、私の目を捉えて離さない。





ああ、この人は、




そんな過去を私に託してくれたんだ。




こんなにも未熟な私を信用して、教えてくれた。






嬉しくて仕方が無かった。




その思いを口に出せば、もうそれは止まらなくなって、



目を瞑る彼の口元を指でなぞった。





その長い睫毛から綺麗に滑り降ちる彼の涙を見た瞬間、

堪えていた何かがプツンと切れて、いろんな感情の混ざり合った涙が私の目から出て行った。



「ありがとう」



そんな言葉は、掠れて彼には届かなかったけれど、その代わりにその涙を掬い上げた。




「醜い、だろう。」




醜いなんて、誰が思うだろうか。



綺麗だとさえ思ったのに。




「いいえ、ちっとも」



キッパリと言い切ると、心做しか彼の顔は安心したように緩んだ。




目を開けた伊黒さんは、いつもの様に、でもいつもより少し優しい声で「…お前はよく泣くな」と呆れ気味に言ってきた。



だから、いつも通り私も笑いながら返す。




…幸せだ。



こうやって伊黒さんと笑い合えることが、本当に嬉しくて




ずっと一緒に笑い合っていたいと願った。







だから、







「…好きだ。」







そう言われた瞬間も、







「ばっ、ち、違うんだ!



今のは、忘れて、くれ…!」







伊黒さんが顔を真っ赤にさせながら、焦ったように食堂から走り去って行った後も、








私の気持ちは変わることは無かった。






「…返事くらい聞いてくださいよ、」







そんな私のひとりごとが、ポツリと響いた。

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ニンニク - emiさん» このシリーズ好きなんですよ! (2020年4月30日 19時) (レス) id: c0f99f9f3e (このIDを非表示/違反報告)
emi(プロフ) - ニンニクさん» 鼻からケチャップw お気を確かに!!笑笑 ありがとうございます!! (2020年4月25日 8時) (レス) id: 99f895e5d1 (このIDを非表示/違反報告)
ニンニク - emiさん» 楽しみに待ってます♪伊黒さんかっこよすぎて鼻からケチャップが・・・ (2020年4月24日 22時) (レス) id: c0f99f9f3e (このIDを非表示/違反報告)
emi(プロフ) - ニンニクさん» 本当ですか!嬉しいです!そんなことを言っていただけて光栄です!伊黒さん素敵ですよね!頑張ります!!コメントありがとうございます!! (2020年4月22日 10時) (レス) id: 99f895e5d1 (このIDを非表示/違反報告)
ニンニク - このシリーズめっちゃ好きなんです!伊黒さんおしなので、更新されてるとすごい嬉しくなります!これからも頑張ってください! (2020年4月21日 23時) (レス) id: c0f99f9f3e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:emi | 作成日時:2020年3月10日 22時

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