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翌朝、任務も無事に終わり、街へと下りる。
だいぶ近場での任務だったため、朝のうちに街に着くことができた。
『行かないで……』
街に向かう間も、あの言葉が頭から離れなかった。
あの時の彼女はどこか消えてしまいそうだった。
そんな彼女のことが気がかりで、帰り際に代書屋に寄ってみることにする。
もうすっかり見慣れたその店を覗けば、Aは何故かカウンターに突っ伏して眠っていた。
もしやと思い、引き戸に手を掛ければ、音を立ててそれは開く。
この寒い中、店の中で一晩眠っていたらしい。
不用心にも戸締りをせずに。
何もなかったから良かったものの、いつ鬼が入ってくるか分からない。
しっかり戸を閉めるよう言い聞かせなければ。
そう思ってAのもとに近寄る。
けれど、俺は違和感を感じて立ち止まった。
眠っているAの周りには、くしゃくしゃになってしまった半紙が無造作に散らばっていた。
地面に落ちていたそれを拾い上げてみる。
「っ…!?」
その半紙は黒い墨で文字が書かれていた。
でもそこに書かれている文字は、普段Aが書く文字からは想像もできないような文字だった。
最初こそ綺麗に纏まっている文字は、書き続けるにつれてよろよろと震えてしまっている。
震えた文字で書かれているそれは、いつも彼の遺書に書かれている言葉たちだった。
「煉獄 杏寿郎」
俺の名前の上には、うっすらと涙の跡が見えた。
それを見た瞬間、心の中でガラガラと何かが崩れていく音がした。
俺は、なんて馬鹿だったんだ。
彼女のことが好きだ、なんて思っていながら
俺は彼女のことを考えてなどいなかったのだ。
…彼女が、遺書を書く度に苦しんでいたことを。
距離を詰めれば詰めるほど、俺の存在は彼女の中で重荷になっていたのだ。
そう思えば無意識に体は動いて、
気が付けば店を飛び出していた。
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emi(プロフ) - 柚葉さん» コメントありがとうございます!感動させられるようなお話を作るのが目標だったのでとても嬉しいです!これからも精進させていただきます! (2021年1月30日 19時) (レス) id: 9ba5ed02ee (このIDを非表示/違反報告)
柚葉 - 涙が出て止まりませんでした。 (2021年1月30日 9時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
emi(プロフ) - あさこさん» ありがとうございます…!あさこ様を感動させることが出来て本当に嬉しいです!きっと幸せに暮らしていますよ!コメントありがとうございます! (2020年11月8日 23時) (レス) id: 86023f8af9 (このIDを非表示/違反報告)
あさこ(プロフ) - とても美しい物語で一気に読んでしまいました!途中から涙が止まりませんでした、来世で2人が幸せになってくれることを心から祈ります(´;ω;`) (2020年11月8日 22時) (レス) id: 81f776d056 (このIDを非表示/違反報告)
emi(プロフ) - ゆきえもんさん» 読んでいただきありがとうございます!!読み直して気が付きました…記憶が曖昧なまま書いてしまってました……ご指摘本当にありがとうございます!! (2020年11月8日 6時) (レス) id: 86023f8af9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:emi | 作成日時:2020年4月23日 21時