アイドルとオタクとマネージャー∞

12.村上さん ページ12

それからしばらく顔馴染みというか知ってるオタクが続いて、その中には章ちゃんも裕ちんも丸ちゃんもいて。

彼らが何ローテかした時に見慣れない人が近付いてくる。

その頃には私も普段の調子…とまではいかないものの、最初に批判とかも受ける覚悟でここに意気込んで立ったけれど、思ったよりもみんな困惑しつつも私に対しては優しかったから。

だから、ピシッとスーツを着こなして。

一歩ずつ近寄るその姿に、思わず背筋をしゃんとして。

それでも、ここで驚いたり、怖がってはいけないと、心の中で喝を入れて、


『ありがとうございますっ！

はじめまして…ですよね？』


テンションを上げて話しかける。


「おう。

なんや、ずっと見とったけど、元気やなぁ」


『ずっと？…あっ！』


ステージからだと奥の方。

ドリンクカウンターの近くに人影が見えて、ライブなのにスーツは珍しいなぁと思っていた人だと思い出す。

それを口にすると、


「自分、ステージで歌って踊ってたのに、よう見とるなぁ」


と一瞬強面と思ったのに、にこりと私に笑いかけた時に見えた八重歯がキュートだなと思ってしまう。


『嬉しいですもん。見てくれる人が1人でも居てくれたら。

あ、撮りましょう？』


「あ、あぁ」


自然と笑みが漏れたのは、チェキに慣れていないのか、カメラを見て思い切りピースサインをしているのがわかったことと、こうやって特典会に参加してくれたことが嬉しかったから。

私も同じようにピースして、


『あの、名前は…？』


「ん？村上や」


『村上…さんっと』


日付と名前を書きながら、ピースのイラストなんて描いていると、


「なぁ」


と声が落ちてくるから、


『はい？あ、はい、どうぞ』


なんてチェキ渡しながら緩く返事をする私。


「泣かへんのか？」


『え？』


「泣かへんのかなって思ってな」


と横の3人の方に視線が移るから、私も初めて他の3人の様子を見ることになって、気がついた。

ボロボロと泣きながら対応してることに。


『あ、えっと…』


「ん？」


『…泣きたい気分もあるけど…。

私がここで泣いたら、応援してくれる人とか、今、並んでくれてる人がもっと不安になっちゃうから。

だから、泣きません』


泣きそうな気持ちよりも感謝のが上回るから、村上さんに笑顔で言える。


「そうか。強いな」


ぽふっと頭に手が乗ったのは一瞬で、そして


「また来るわ」


振り返らずに片手が上がって、村上さんが離れて行った。

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