病は治ったはずなのに【イゾウ】 (ページ10)

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自覚2 ページ10

催促されたので大人しくオヤジの元へ向かった。大きな扉を開けてオヤジを恐る恐る見る。その表情からは何も読み取れなかった。

オヤジはこっちに来いと目で伝えて来た。素直に歩くと足をチラリと見られて、なんとなく後ろめたくなり、怪我した足を一歩引いた。

「今日のことは感謝する…」

「え？」

責められると思った。オヤジに隠し事は通用しない。だから今自分が気づきたくないと思っている感情も筒抜けで、それを指摘されるんだと身構えていた。

「だがな…自己犠牲の戦い方は褒められたもんじゃァねェぞ…！家族だろうが！少しは信頼してやれアホンダラァ！！」

オヤジは切れ長にした目を向けて来た。そして声を荒げた。

「命より大切なモノのために命張るのはいけないことなのかよ！！！」

なのに俺はそう反抗していた。
完全に反射だった。徐々に、自分の中に芽生えた「愛」では語りきれない感情に近づいていく。

「チッ…テメェ、堕ちんじゃねェぞォ…！わかってんだろうが…」

オヤジは不機嫌そうに、心配そうに顔を背けた。まるで見てられないと言われているようだった。
しかしその一言は核心を突いてきたように感じた。

そうか、俺は狂いかけているんだ。

俺はオヤジに背を向けた。狂う、そんなことはあってはいけない。結果全員を傷つける。
アイツらとAを悲しませることは許せない。痛い思いもさせてはいけない。

食堂に出ると、ワイワイガヤガヤうるさかった。一人異次元に輝くAは置いておいて、みんなの笑顔が眩しかった。

『イゾウさん！がんもあるよ！！』

Aが大きく手を振って迎えてくれた。周りにいるヤツらも熱々のおでんを冷ましながら幸せそうに食べている。
Aはがんもどきが入った皿をくれた。

「ありがとう」

『うん！代わりにあっちで囲まれてる鍋のこんにゃくとってきて』

「それが狙いかよ」

まず一口、とがんもどきを口に入れた。そしてぼんやりと考える。

今日の行動、もしかして狂っていなかったのではないか。今日もモビーはこんなに笑顔が溢れている。俺が狂ってしまったら、もっともっと暗いはず。

ああ、スッキリした。

俺はこんにゃくを取るべく群がる巨体を押し退けた。