自覚 ページ9
イゾウ視点
やってしまった。さっきの行動は衝動的だった。
マルコが部屋にいなかったので次に近いナースの所へ行く。足はズキズキと痛くて、でも血は流れ落ちない。きっともう固まった。
「イゾウがこんなになるなんて、どんな敵だったの。その割には騒いではいないようだけど」
遠回しにもっと気をつけろと言われた。何も答えず手当をしてもらった。
部屋に戻り一人で頭を抱えた。Aがいなくて助かった。少しだけ一人でいたい。
自分でも気づいていたさ。
ずっと看病してくれたA、食べられなくても欠かさず三食持ってきてくれるサッチ、病について調べてくれたマルコ、心配して部屋を覗きにきたり逆に覗くのを控えたりしていたみんな。
俺を気にしてくれる様子に、とても胸が熱くなった。自分は愛されているんだとしみじみ思った。
それから回復に向かう間、俺の中で家族や恋人への愛情は膨れる一方だった。
家族達には絶対に傷つかないでほしいと思った。些細な切り傷、ささくれ、それらもアイツらを痛めつけているのかと思うと憎く感じた。
Aは存在が恨めしいほどに愛おしかった。見ているだけで、同じ場所で同じ時代を生きているんだと思うだけで頬が赤くなるくらい幸せだった。
「イゾウ、オヤジが呼んでる」
「わかった」
しかし俺の脚は動かなかった。
今日、海軍に追われた。
大切な、大切な家族達に向けて砲撃してきた。その瞬間俺の頭では思考ができなくなった。体が一気に熱を持って、気づいたら砲弾を蹴り飛ばしていた。
おかしいと思った。今までなら理性的な戦いしかしなかったはず。
しかし今日は確かに思った。
殺してやる、と。
思えばジョズがコップを割って、ラクヨウが怪我をした時もそうだった。
海賊をしているんだ、それ以上の怪我の方が珍しくない。なのに俺は取り乱し、半ば泣きそうになりながら手当をした。
俺らしくないってとこが正直なところだ。心配性は自覚しているが、ここまでではない。今でももし家族が敵に会ってしまったらと考えるだけで鳥肌がたつ。失うのを極端に恐れている。
俺は、コイツらが居なくなったらどうしたらいいかわからない。Aが居なかったら生きていく理由がわからない。
俺を捨てないで。
「イゾウ！まだ行ってねえのか！様子がおかしいと思ったらよぉ…」
肩を跳ね上がらせた。
「悪い悪い、考え事をしていたんだ」
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作者名：はなやぎ | 作成日時：2023年8月6日 18時
