懇願 ページ46
イゾウ視点
外から声が聞こえた。
「ハシゴ降ろすぞ〜！」
窓を見ると美しい港町が見えた。青い屋根と白い壁が綺麗で、活気で溢れている。
『イゾウさん！』
「ん？」
『一緒に降りよう！』
Aの目が輝いている。前までは一緒に降りようなんて言ってくれなかったからすごく嬉しかった。でも…
「ダメだ」
『え……？』
一気に悲しそうな顔をする。俺を悲しませないでなんて言っておいて、こんな顔をさせるなんて最低だってことはわかってる。
『イゾウさんと一緒でもだめなの？』
「俺だって万能じゃない」
前のように声をかけられたらどうする。また俺はソイツを殺すしかなくなってしまう。
それでなくてもAに向く視線から守ることはできないし、Aの耳に入る声も遮断できない。
すれ違う誰かの匂い、ぶつかる肩、足下にある石に躓くかもしれない。その全てがAを傷つけるもので、許せるはずもないものだ。
『…わかった、我慢する』
「ああ、俺もここに居る。だから二人でみんなの土産を待とう」
Aは落ち着かなそうに歩き回っていた。最近運動不足だとつぶやいていたし、動きたいのだろう。
「そうだ、倉庫の整理を頼まれてたが一緒にやるか？」
『やります！力仕事？』
「そこそこだな、Aも多分できる」
『よし、行こう！』
筋トレの歌(自作)を歌いながら歩くAの後ろについていく。
Aって…変だよな。
船の奥、誰も来ないような場所だ。整理なんて頼まれてないが、Aの運動になりそうだと少しだけ散らかしといた。
健康には気を遣わなければ。
『泥棒でも入った…？』
「うちに盗みに入るなんて度胸あるな、逆に許せる」
『大切な物はちゃんと綺麗に置いてあるし泥棒じゃないか。うちの人達はどうしてこんなに片付けができないんだろう』
犯人は俺です。ごめん、少しやりすぎた。
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作者名：はなやぎ | 作成日時：2023年8月6日 18時
