純愛 ページ37
イゾウ視点
マルコが明後日の方向を見ながら言った。
「本当にそれだけか？ならいいんだが…まだあるなら話せよい」
「ねえよ」
「心配して損した…主にAの心配だけどな」
「ここまで引っ張ってきてかよ」
マルコは立ち去った。
嘘だ、泣いている理由は失いたくないだけじゃない。きっと治るとわかっているから、辛そうなのは本当に心が痛むけれど、代わってやれたらとは思うけれど、大丈夫という気がしている。失うことはないんだろうと思っている。
Aを隔離されるのが怖くて、俺は本当のことは言えず、適当な理由を述べてしまった。
その罪悪感からため息を吐いて項垂れた。
「ごめん…！」
本当の理由は後悔だ。あれだけ気をつけたのに、余裕をこいてAを甲板に出したのがいけなかった。
人攫いには遭うし、男に声かけられるし、だから船から降ろさないようにしたのに。
守れなかった。
ごめん、ごめん、ごめんなさい。
この前の夜だ。ワンピースを寝巻きにしていたAの太ももが、本人の寝相のせいで見えてしまった。
痛々しく腫れた虫刺されにゾッとした。ハチやアブの類いではない、痛かったのだろうと思って思わず抱きしめた。
…Aは起きなかったのだが。
万が一にもAが傷つくことがないように、俺がしっかりしないと少々危機感が無いAが危ない。
愛する女を守れなくて何が男だ。過去の自分をぶん殴って、ヘラクレスオオカブトに浮かれてんじゃねえ！って言いたい。飼いたかった。
だめだ、余計な思考が時々挟まる。これからどうするか、さっさと考えよう。
立ち上がって海を眺めた。陽はほとんど水平線に沈んで、太陽の反対側には夜の空が見える。今夜は快晴だ。Aと一緒に星を見れないだろうか。
待て、待て待て待て。
そういった考えが結局Aを傷つける結果に繋がったんだ。
外に出さない、これは徹底しよう。アブナイから、外に出なければいけない用事は俺が全部代わろう。復活したらちゃんと話して納得してもらおう。
泣き落としてでも…俺に嘘泣きできる演技力はないか。仕方ない、最近涙腺が大変なことになっているし、成り行きに任せよう。
俺は食事を持ってまた部屋へ歩く。話しかけられることもなく、目覚めていたAの所へ帰った。
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作者名：はなやぎ | 作成日時：2023年8月6日 18時
