不幸4 ページ36
Aの熱は出航してからも続いた。
それでも皆に迷惑をかけまいと頑張ってはいたが、案の定イゾウに怒られて寝かされる毎日だった。
「大丈夫か？」
『その内治るんじゃない…？マルコもナースさんも大丈夫だって言ってたし、目も治ったよ』
「でも…」
イゾウは不安そうにAを見つめた。Aの体に手を置いて、トン…トン…と叩いてやると、Aはゆっくりと目を閉じた。
「なあ」
しばらくしてからイゾウが言ってみても返事はない。既に眠ったのだろう。
それを理解した瞬間、イゾウの目からはボロボロと涙がこぼれ落ちた。着物の袖を掴んで拭うが、またすぐに溢れてきて、イゾウは声を押し殺した。
自分が熱を出していたとき、正直とても辛かった。
今Aが体験しているのだと思うと、それ以上に辛かった。
「失礼……っゔわ、何泣いてんだよい」
「うっせ…」
マルコが部屋に来て、Aの額に手を当てた。そしてぼそっと熱ぃな…と呟くとイゾウを見た。
「何で泣いてんのか聞いていいやつかよい」
「…できれば話したくない」
「話せないわけじゃねえな？じゃあ話せよい。悪い予感しかしねえ」
マルコは泣き止んで鼻をすするイゾウの腕を掴んで強引に部屋から連れ出した。Aを起こさないため、そして万が一にもAに聞かれないための配慮だった。
甲板にあるベンチに座る。もう夕方で真っ赤な空が眩しかったので、太陽に背を向けて座った。
「で、なんで泣いてんだ。理由によっちゃAはしばらくお前から離すことになるだろうよい」
「は…？」
「何驚いてんだ。お前、Aのことになると過激すぎるんだよい。仲間にも随分優しくなったと思うが、Aにはやり過ぎてるように感じる」
イゾウの瞳は小刻みに揺れている。迷いが見て取れた。
「怖いんだ…Aは、俺より弱い。だから…ｯ！！」
話し始めると止まっていた涙がまた込み上げてくる。イゾウはギリギリと歯を食いしばって泣き叫ばないように耐えた。
「だから……居なくなるんじゃないかとッ！」
「んなわけねーだろい。俺が大丈夫って言ってんだ、少しは信じろよい」
イゾウがやっと絞り出した言葉は本心ではあるが核心ではなくて、マルコに一蹴されて終わった。
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作者名：はなやぎ | 作成日時：2023年8月6日 18時
