不幸3 ページ35
Aは目は見えないし虫に刺されるしで踏んだり蹴ったりだ。まだジンジンする太ももの赤い腫れを、ズボンの上から摩りながら部屋に戻る。
『なんて不運なんだ…』
椅子に座って机に伏せる。そしてそのまま眠りについた。
しばらくして、またもや入れ違ったイゾウが部屋に入ってきた。
「寝てる…のか？」
イゾウは安心したように息を吐くと、適当に床に座ってAの姿を眺めた。
どれくらい経ったか、イゾウはAの頭を撫でてからまた甲板に出た。
「イゾウ！これ捕まえた！！」
イゾウは虫かごの中を見るなり目を輝かせた。
「ヘラクレスオオカブトか！原点にして頂点だな！」
「飼おうぜ！」
何人かでわいわい話していた。遠くから眺めている人はほとんどが虫に嫌そうな顔をしている。
「イゾウの部屋で飼えねえか？」
「無理だな、Aが虫苦手だ」
「んー…じゃあ俺らの寝床？」
「おいおい、俺は潰す自信あるぜ」
「オレもー」
結局放すことになったカブトに別れの挨拶をしてイゾウは食堂に向かった。
適当に駄弁って夕飯の時間になると、イゾウはAの分と合わせて二人分の食事を手に持って部屋に戻るべく歩いた。
「アレ、みんなと食べへんのか？」
廊下ですれ違う時に声をかけられた。
「Aが虫に刺されたんだ。目ェ怪我してるし、停泊中だけは部屋で食べさせようと思ってな」
「怪我してたん？お大事にって伝えといてな」
「ああ、受け取った」
白ひげ海賊団は人数が多い故に、名前も覚えていない人の方が多い。
覚えていたとしても個人的な情報なんて行き届かないのが普通だ。
扉を開けてイゾウがAの姿を捉えた時、Aの顔は真っ赤で目がぼんやりとしていた。
「どうした、体調悪いのか？」
『うん…熱っぽい』
Aは起きた瞬間に感じたゆったりとしたフラつき、妙な背中の熱に自分の体温が高いことが分かった。
イゾウは船内だというのにマルコに電伝虫をかけて呼び、Aを診てもらった。
「判断はナースの方の記録見てからだな、風邪っぽくないし、虫がなんか持ってきたんだろうよい」
Aは頷いてお礼を言うと、既に冷たくなったご飯に手をつけた。
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作者名：はなやぎ | 作成日時：2023年8月6日 18時
