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A視点
さっきまで暗かったのに急に明るくなったから、目を開けても何も見えなかった。
でも聞こえた。イゾウさんの声。
「全員解放できたか？！すぐに逃げるぞ！」
「戦わないのか？！」
「すでに出航予定時刻は過ぎてんだ！そんな時間は無い！！これから風向きが変わるしティベイに会えなくなるぞ！」
「クソッ…！」
走れる人は走り、私は抱えられた。厳しい顔のイゾウさんを見上げると、眉間の皺がすごく深くて怖かった。
外に出ると、さっきまでいたところが船でそこそこ大きな集団であることがわかった。
「帰ってきたぞ！！出航だー！！！」
追い風であるうちに出航した。部屋に入ってイゾウさんにそっと降ろされる。
「大丈夫か…？」
その顔は不安そうで、私の方が心が痛んだ。
『うん…ごめん。イゾウさんはこういうことがあるから守ろうとしてくれたんだよね』
「…」
イゾウさんにギュッと抱きしめられるとすごく安心できた。大きな体で包み込むように上から腕をまわしてくれるので、私も強く抱きしめた。
「そんなもの巻いてたか？」
『あ、これ…』
首に巻かれている布を見てイゾウさんが言った。毎日私の服を選んでいるのはイゾウさんだから、変化に気づけたのだろう。
「…っ！！」
『イ、イゾウさん…？』
布を取ったイゾウさんは息を呑んで固まった。目を見開いて、その瞳が微かに揺れている。
「これ…さっきの、ヤツらに？」
地の底から湧き上がったような低い声に、私は恐る恐る頷いた。やはり強く噛まれた跡が残っていたらしい。
イゾウさんの顔が歪んだ。何者も寄せ付けない殺気に、私の口からは謝罪が、目からは涙が自然とこぼれ落ちた。
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作者名：はなやぎ | 作成日時：2023年8月6日 18時
