病は治ったはずなのに【イゾウ】 (ページ16)

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排除2 ページ16

店の扉を閉めた瞬間、俺は隣で愛想笑いを浮かべる男の首根っこを掴んで店の裏へ放り投げた。

「いッ…！！！」

「昼ぶりだな」

見下ろす瞳で俺だと気づいたようだ。邪魔な髪をかきあげた。

「あっ！！…昼は本当にすみませんでした！」

そのまま頭を下げる。そいつの髪を掴んで頭を上げさせた。

「何に対して謝ってる」

「うっ……彼女さんと知らず声をかけてしまって…お怒りになっても当然です」

「そうか」

手を離した。しかし髪から離された手が次に触れたのは銃だった。

「お前のような輩がいるからAを船から降ろせなくなるんだろ」

カチャ…と、引き金を引けば命を奪えるところまできた。

これからはAを船から不用意に降ろしてはならない。
俺以外の男に誑かされる危険もある。たとえAが幸せだと言おうが、俺は許せない。可能性はゼロへしなければ。まずは可能性0.1のこいつを消す。

「Aに手を出そうとしたよな。あわよくば抱けそうなんて、甘いな。命をドブに捨てることになるのは同情する」

声も出せないようだ。ただガタガタと震えるこいつは無様で滑稽。こんなヤツがAの近くに一瞬でも居て、Aが吐いた二酸化炭素を吸った。そして声と一緒に吐き出して、連れ去ろうとした。
俺のAなのに。

「Aには俺がいるんだ、テメェの出番はねえよ」

今まで何人も、何十…いや何百何千かもしれないが、人は殺してきた。
さっさと殺せばいいのに俺はまだ引き金を引けないでいた。怒り、それ以外の感情なんてないというのに。

本能が言っている。こいつを殺してしまえば引き返せないと。

突然オヤジから言われた言葉が浮かんだ。「堕ちるな」
今から俺は堕ちるんだと思った。

…上等だ。Aを、仲間を守れるなら地獄より下へでも堕ちてやる。
俺は引き金を引いた。

部屋に戻ると、Aはぐっすりと寝ていた。俺の葛藤なんて小さなものに思えるくらい、Aは俺にとって大きな存在だ。

血は一滴たりともかかってない。
銃を置いてAの頭を撫でながら、起こさないように覆い被さった。そして触れる手脚、身体、そこに意識を集中して幸せを噛み締める。

俺の腕のなかにAはいる。

優越感を味わった。いつも通りキスをして、お腹に布団をかけてやってから寝た。