上陸3 ページ14
それを見たイゾウは許せるはずもなかった。
Aのために起こした行動を否定されたような気がした。
「A」
イゾウはAの手を掴もうとした男の手を叩き落とした。Aはそんなイゾウを怒るでもなく、ただ悲しそうな目で見つめた。
『イゾウさん、本当にどうしたの?らしくないよ』
「らしくなくても、格好悪くても、Aを守りたいんだ」
Aは黙り込んでしまった。いつの間にか男はいなくなっていて、二人もその場には居づらいので移動した。
守りたい、そう言えば聞こえはいい。しかしイゾウは気づいていないが、「Aを守りたい」より「自分から離れてほしくない」のほうが大きい。そしてそれをAの方は漠然と感じ取っていた。
「飲み物、買ってきた」
『ありがとう…今日はもう帰ろう』
返事の代わりにイゾウは無言でAの手を握ると前を向いて歩き始めた。
モビーはいつもとなんら変わりはない。二人はそれにひどく安堵した。
『イゾウさん、さっきは何を考えていたのか聞いてもいい?』
「Aが話しかけられた時のことか?」
部屋に入るなりAは尋ねた。イゾウは壁際に紙袋を置くと、Aと向かい合って座った。
「…怖い思いをさせて本当にごめん。でもあの場での最悪の未来は、Aに一生の傷を残すと思ったんだ」
『単純な…嫉妬って感じでもないよね』
「それもなくはない。でももし俺の隙をついてAがアイツに連れて行かれたら、そう考えただけで気が狂いそうなんだ」
Aには男が悪人には見えなかった。しかしイゾウにはAに危害を加えるモノに感じられた。
話しかけんな、触れんな、視界に入んな、近づくな、イゾウは強いて言葉にするならこういった思いを抱いていた。
Aは違和感は捉えていた。しかし何が引っかかるのかは判らなかった。
目の前で背中を丸めて震えるイゾウをそっと抱きしめた。
『私、大丈夫だよ。イゾウさんから離れない』
「…ああ」
イゾウはAを強く抱きしめ返した。そして首元に顔を埋めてしばらく動かなかった。
イゾウはAの匂いに包まれながら考えていた。
Aを奪うとは俺を殺すのと同義だ。Aがいなければ生きる理由はない。殺しに来る者は返り討ちにするのが普通だろう。
二人はどちらからともなく離れて食堂へ歩いた。
56人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:はなやぎ | 作成日時:2023年8月6日 18時