病は治ったはずなのに【イゾウ】 (ページ13)

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イゾウはAが話しかけられた時点でだいぶ心が死んでいた。にこやかに対応するAを見て可哀想になっていた。

「こんにちは、このお店に来たことってありますか？」

『いえ…初めてですね』

「そうですか！僕もなんですよ、何が良いのかわからなくてですね…」

『あのモモのやつとか間違いなさそうですよね！』

話したくもないのに優しく反応してあげて、Aはなんて良い人なんだろう。それに付け入るなんて害悪な男だ。
早くAからアイツから引き離さないと。

イゾウは座っていたベンチを立った。発砲も辞さないつもりで一歩踏み出した。

「よければご一緒できませんか？」

イゾウはすぐさま男の肩を掴んで後ろに引き倒した。口を挟む隙もなくAを引き寄せて、尻餅をついた男を睨んだ。

一人にさせたらすぐ危険が襲ってくる、それくらい可愛い人だから。やっぱり自分は離れるべきではなかった。外に出すべきでもなかった。後悔してもし尽くせない。

イゾウはそう考えていた。
するとAがイゾウの顔を見上げて言った。

『イゾウさんありがとう』

イゾウはAは嫌がっているのではという想像が事実であると確信した。

『でもね、もっとやり方があると思う。私が一言断れば終わったことだと思うよ』

Aに諭されたイゾウは、それでも睨むのをやめなかった。チラリとAを見て今日も愛しいと思い、そんな人を奪おうとした男に怒りをますます募らせた。

「男を簡単に考えすぎだ。良い顔を見せるヤツほどタチが悪い。下心を見せず、Aの優しさに付け入る気だ」

『…だとしてもだよ』

Aはそう言いつつもイゾウの言葉を聞き入れようと頑張っていた。
イゾウは赤の他人であれ簡単に傷つけるような人ではない。男であるイゾウには相手のことが自分より、ほんの少しわかるのだ。男しか気づけない下心がイゾウには見えたのかもしれない。

『ごめんなさい』

Aは尻餅をついている男に言った。

Aはイゾウを理解しきれていなかった。一緒に飲みませんかと言ってきたが、イゾウはその言葉が聞こえる以前に怒りを滲ませながら歩いてきた。どうしてもイゾウがやりすぎているとしか思えなかったのだ。

立ち上がれていない男に手を差し出した。