高熱 ページ2
モビーはいつも通り明るい雰囲気が立ち込めていた。昼間から酒を飲んだり、ところどころで喧嘩が起きたり、それでも平和な日々だった。
しかしその日々の中にイゾウだけは居なかった。イゾウは二週間前から高熱を出して寝込んだままだった。原因不明、40度付近をウロウロしていて、みんながあのイゾウだし大丈夫だろうという思いと、本当に大丈夫かという心配を抱えていた。
『イゾウさん、食べられる？』
「ああ…」
Aは今日も献身的に看病していた。イゾウの、はっきりとはしていないが恋人のような立ち位置のA。お互い告白など、恋人と仲間の間に線引きすることはしなかった。しかしどちらも彼、彼女の恋人だと自覚しているので問題はなかった。
『治りそう…？』
「いや…わからない。死にはしないさ、大丈夫」
『そう…代われたらいいのに』
「それは許さないが…そうだな、早く治ることに越したことはない」
イゾウはAが部屋にいない間はほとんどアルバムを眺めていた。写真も数は多くないものの、大切な思い出になると思ったときは必ずシャッターを切っていた。まめなイゾウは大切に一つ一つを残していた。
「調子はどうだい？」
「変わらず、だな」
「辛いなら無理せず解熱剤飲めよい」
「ああ、ありがとう」
苦しいといえば苦しいが、腹を貫かれたときほどではない。そういった次元違いの比較対象があったので、イゾウは薬に頼らずここまできた。
「よっ、食べたいものあるか？」
「わからない、任せてもいいか？なんでも食える」
「んー…う〜ん…」
「じゃあ魚」
「任せろ…っと、一人じゃ寂しいだろ。こっち出るか？」
サッチはご飯の時間のたびにイゾウの部屋を訪れた。Aの部屋でもあるこの部屋に閉じ籠るイゾウに、食堂などで食べる提案をした。
「そうだな…しかし、この状態を見せて心配をかけるわけにも…」
「会えない不安も考えてやれ。肩くらい貸してやるから、大丈夫そうなら行こう」
「熱は大丈夫だ…から、久々に出るか」
イゾウは多少鈍足ながらも食堂へ自分の足で歩いた。
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作者名：はなやぎ | 作成日時：2023年8月6日 18時
