翻訳が機能する世界線【D.Gray-man】 (ページ10)

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八十之門 side Cross ページ10

「馬鹿弟子……アレンを導いてくれ。」

その言葉を言った後に思ったのは、自分の甘さだった。
この戦いの中で、自分は情を一切捨てるつもりでいた。利用するものは利用し、壊さねばならないものは壊す。例えそれが、どんなに大事なものでも。

＿＿＿＿けれどそれは、やはり難しいことであった。
三年という短い間とはいえ、不器用なりに育ててきたあのガキを今更見捨てることなんて出来なかった。
例えあの存在が紛い物であろうと、俺にとって彼奴と過ごした時間は本物だったのだ。
芽生えた感情に、【師匠】としての感情に、気付けば見ないふりが出来ないところまで来てしまっていた。
最後の最後には失う存在であろうと、それまでは彼奴を彼奴らしく歩ませてやりたかった。

＿＿＿＿＿＿＿＿そんな時に現れたのが、虎門白桃という少年だった。
この世界のことを知っている。この先にどんな未来が待ち構えているのかも。
邪魔をするつもりは無い、見届けると奴は言った。

けれどそれならば。

どうか、あの馬鹿を導いてやって欲しい。

そう思ってしまった。

「俺も大概馬鹿だな……。」
未だ降り続ける雨を見つめ、白桃が去っていった窓を見つめる。そして、ゆっくりと窓辺へ腰を下ろす。
先程話した馬鹿弟子の顔を思い出し、俺は口角を上げた。
心配することなど、何も無い。けれど、変に気にかけてしまう。
(馬鹿みたいな、情けない親心ってやつなのか。)
理由は分からないまま。
「生意気な面になった。」
空を見上げると、やはり降り注ぐ無数の雨粒と暗い雲が広がっている。
それでも、心は異様に晴れやかだった。
「教団(ここ)にきて、そう悪いことばかりでもなかったようだな…。」
その言葉を呟い後に、静かな部屋中にノック音が嫌に響いた。
(どうやら、客人が来たようだ。)

＿＿＿＿＿＿＿＿そして、俺は姿を消した。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

「ハッ！」
ガバッと勢いよく白桃は寝台から起き上がる。部屋は静かであった。フレアやクロスケも眠っている。穏やかな夜の時間。

けれど、これは現実なのだ。頬に滴る汗は寝汗などではない。

寒気がした。

異様なほどの寒気が。禍々しくて不気味、冷たくて気色が悪い。そんな気配だった。

はぁ、はぁ、。乱れる呼吸をゆっくりと整えていく。

(………クロス…。)

白桃は、もう此処には居ないであろう人物の無事をただ静かに祈った。