翻訳が機能する世界線【D.Gray-man】 (ページ8)

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七十九之門ページ8

「で、何の用だよ？」
少しイラつきながら再び窓辺に腰をかけるクロスと、濡れた頭を拭きながらも視線を混じえる。
「いや、聞きたいことがあってな。」
「あ？」
「三十五年前、この精霊を捕まえたのは貴方だろう？」
そう言って自分の肩に隠れていたフレアを指さした。するとクロスはじっとフレアを見て、ああ、と思い出したように呟いた。
「お前、キャンベル邸は知ってるのか。」
真っ直ぐに見つめてくるクロスに対し、少々答えづらいことで自分は顔を歪めたが、話が進まないので気は進まないが答えることにした。
「……まぁ、」
「…そうか。＿＿＿＿そいつはそこに居た。」
その言葉に、自分は妙に納得してしまった。
(やっぱり。)
「何かの手がかりになるかと思って捕まえといたんだが……関係は無かったみたいだから、ずっと放置してた。」
手がかり、それは何の。そんな無粋なことを聞くつもりは無い。とはいえ、クロスは此方の事情を知っているから包み隠さず答えてくれるということが感じ取れる話し方であり、自分は何だかそれが少し嬉しくも思えた。
「〔ひ、ひでぇ……。〕」
クロスの言葉に涙目になるフレアの頭を宥めるように優しく撫でた。その手を止め、自分は再びクロスへと視線を向ける。真っ直ぐに、逸らさぬようにしっかりと捕らえて。
「フレアは自分と同じで、別の世界から来たらしい。三十五年前、フレアが此方へ来た際に何か変わったことが起きなかったか聞きたいんだ。
此方としては、それが元の世界に帰る手がかりになるかも知れない。」
そう、今回クロスの元を訪ねたのはこのことを聞きたかったからである。
フレアは自分と同じ異世界人だ。つまり、自分が此方へ来た時とフレアが此方へ来た時の三十五年前に似たような異変現象がこの世界で起こっているかもしれない。あくまで可能性の一つだったが、聞いてみる価値はあると思ったのだ。
しばしの沈黙を経て、クロスは口を開いた。
「…なるほどな。けど残念だったな、俺は何も知らねぇよ。」
「………そうか。」
クロスの目に、嘘は無かった。それはしっかりと分かった。不良だの野蛮人だの言われるが、自分にとってはとても真っ直ぐで良い人だと思える。だから、自分はこの人を信じているのだ。
これ以上聞いても仕方が無い。諦めるしか無いだろう。
「ふぅ……＿＿＿＿話してくれてありがとう。」
だからこそ、最大の敬意を払わねばならない。自分はクロスに対して深々とお辞儀をした。