翻訳が機能する世界線【D.Gray-man】 (ページ30)

今日:5 hit、昨日:2 hit、合計:14,004 hit

九十八之門ページ30

琥珀羹、現代で言うところの琥珀糖。江戸時代に誕生した寒天と砂糖のみで作られた菓子である。
時代が同じとはいえ、まさかこの世界でお目にかかれるとは思わなかった。
「……綺麗だな。」
「はい！名前を聞いたとき、白桃のことが思い浮かんで。」
「自分が？」
「はい、白桃の瞳って、これと同じで琥珀の石みたいに綺麗だから…。」
「え、」
「え？」
全員の間に沈黙が流れる。
(それは………なんだ。)
アレンの意図が読めずに思わず黙ってしまう。当の本人は自分で言ったことに気付いていないらしくきょとんとしている。
ツッコミ待ちか、ツッコミ待ちなのか。
自分は相変わらず無表情だが、リナリーやリンクは再び表情が固まっている。
神田は溜息をついて、全員の心の内を代弁した。
「お前、それ口説き文句か。」
「へっ？」
「………。」
自分は敢えてノーコメントを貫く。
＿＿＿ﾎﾟｸ､ﾎﾟｸ､ﾎﾟｸ､ﾎﾟｸ､ﾁｰｰｰｰｰｰｰｰｰﾝ｡＿＿＿
木魚がアレンの脳に状況整理完了の合図を送る。途端にアレンは頬を赤らめて叫びながら弁解し始めた。
「ち、ちちちち違います！！そういう意味じゃなくて、いやそういう意味でもある、あああだから、なんていうかその！」
「はいはい、落ち着け落ち着け。」
「冷静過ぎるのも逆に腹立たしいですね！？！？」
そんなこと言われても。
焦るアレンを無視して、自分はふむ、と考える。
アレンの紳士っぷりは確かに仮面といえばそうである。しかし、それは振る舞い方であって言葉に嘘は無い。だから自分に向けた言葉も嘘では無いのだろう。
(それならば。)
「ふむ、」
「えっ」
「ありがとう、アレン。大事に食べるよ。」
「……っ！はい！」
アレンの好意を素直に受けとめ、感謝を示した。そして、自分は再び琥珀羹に目を落とす。
陽の光に照らされて輝くそれは、確かに宝石のようで綺麗だった。
アレンは真っ赤になった顔を冷まそうと両手で仰いでから、最後に残った小袋を手に取った。
「これは、神田にです。」
「……。」
心優しいアレンのことなので、一人だけあげないということはないことは分かっていたが、やはり犬猿の仲な神田にとってはアレンの行動は意外らしく、眉間に皺を寄せながら渋々と受け取った。
少々適当に開けられた袋から現れたのは、蓮華の金属模様が入った懐中時計だった。
「……お前、」
「神田、物をあんまり持たないでしょう。」