翻訳が機能する世界線【D.Gray-man】 (ページ28)

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九十六之門ページ28

訪れた洋菓子店は小さくて可愛らしいドールハウスのような外観をしており、中も女性受けの良さそうなものになっていた。一概に可愛いと言っても、現代によくあるような「ゆめかわ」などの類とは全く違い、英国の建築に合わせた落ち着きのある可愛さだ。これは男性にも良い印象を持たれそうな感じである。
案内された四人用のテラス席で、腰をかけるや否や各々自由に注文していった。
アレンはアールグレイに、オレンジのタルト、ザッハトルテ、そしてヴィクトリア・サンドウィッチ。
(へぇ…こっちにもあるのか。)
19世紀のイギリスを治めた女王のお気に入りのケーキ。彼女によってこのケーキはイギリスでは定番のものとなった。
この世界は仮想とはいえ一応19世紀末なので、丁度重なっている。彼女がこの世界にも存在しているのかは分からないが、自分の世界と同じものがあることを思うと少しだけ嬉しく思えた。

リンクはダージリン、ベイクドチーズケーキ。
リナリーはアレン同様アールグレイにレモンチーズケーキ。
神田はブラックコーヒー。自分はファーストフラッシュである。
それぞれの頼んだ品が来るまで暇なのか、そういえばとアレンが話題を振る。
「これ、さっき雑貨屋で買ったんです。」
そう言って袋から取り出された五つの品がテーブルに並べられる。
(何やら変な形をしたものがあるが、ツッコむべきだろうか。)
自分はアレンの品選びセンスを疑いながら半目で見つめた。
「なんですかそれは。」
リンクも自分と同じ気持ちなのか、訝しげな表情でそれらを見つめている。そんなリンクにアレンは気付かずにこやかに答える。
「これですか？これは南の方にある民族の置物だそうです！可愛いですよね！」
そう言いながら手に取ったのは南の民族の形をした木彫りの人形だった。可愛いかそれ。
「かわ…？そ、そうね！」
リナリーもアレンに気を使っているのか、苦笑いをしつつそれに同意した。
(リナリー、無理はするな。)
自分は心の中で彼女を労わった。何とも言い難いアレンの美的価値観に全員の顔が固まる。そんな中で唯一神田がアレンに向かって言った。
「趣味悪。」
カッチン、そんな音が聞こえたかのようにアレンはこめかみに青筋を立てて笑顔のまま反論する。
「安心してください、神田にあげるものじゃないので。」
「他のやつが貰っても嫌だろ。」
「うるっさいですねえ！これは自分用だからいいんです！」
(いやそれ自分用かよ。)
そんなツッコミが喉まで出かかった。