翻訳が機能する世界線【D.Gray-man】 (ページ16)

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八十五之門 side Allen ページ16

神田の手が、僕の腕を掴んで離さなかった。無駄に強い力で振り切ることが出来ず、僕はその場に留まる他なかった。
『……なんですか。』
僕より少し高い背の神田を睨むように見上げると、負けじと向こうも此方を鋭い目付きで見てきた。けれど、その表情は思っていたよりも穏やかなものだった。
『言い方を変える。』
『はぁ？』
珍しく彼から話しかけられ、少々強引だが未だに彼の中では話が終わっていないらしい。本当にさっきから意味が分からない。
神田の行動の意図が読めずに悶々としていると、彼の言葉が嫌に鮮明に聞こえてきた。
『＿＿＿＿泣けたのか。』
『、…え』
(それは、どういう意味で。)
昨日の今日で、神田が事情を知っているとは思えない。ましてや、元帥が行方不明など知らないはずだ。今でさえ新本部の方で中央庁の上層部の方達が慌てて調べているというのに、旧本部にいた神田が知るはずも無い。
なのに何故、この男は僕が抑えていることに気付いたんだ。＿＿＿＿あれか、野生の勘とかいうやつですか。
なんて阿呆らしい。けれども、彼らしい。
神田の質問に答えるとするなら、単純に言ってしまえばノーである。
でも、ついさっき許して貰えたのだ。「休める時は休んでいい。」と。言った彼＿＿＿＿白桃にどれほどの意図があったのかは分からない。でもその言葉に僕は確かに救われた。まるで僕のことを全部分かったかのような口振りで、けれどそれがとても優しくて、あたたかくて。
『そう、ですね。』
泣いてはいない。泣かせてもらってもいない。でも、自分が好きな時に泣いていいと許して貰えた。
それだけで今は十分だった。僕はまだ、頑張っていたいから。
(神田、君の考えていること、よく分からないけど、せっかくだから伝えておきますね。)
『泣いては、いないです。でも、』
神田は、しっかりと僕を見てくれた。それがほんの少しだけ嬉しくて、神田なら大丈夫だと、犬猿の仲である相手に思ってしまった。
『何も変わらない琥珀みたいな瞳が、僕のことを真っ直ぐに見てくれたんです。』
偽ることのない、純粋な笑顔でそう言うと、神田は少し驚きながら、そして静かに『そうか、』と呟いて僕の腕から手を離した。
そして静かに、神田は僕に言葉を投げかけた。
『俺は、お前がどうなろうとどうでもいい。』
『…はい。』
僕はその言葉をしっかりと受け止める。だって、言葉は冷たいようで冷たくなかったから。