七十一之門 side komui ページ48
白桃くんは、表情が乏しい。
それでいて、とても分かりやすい子でもあった。
表にこそ出ないものの、纏う雰囲気や空気に出る子であった。だからこそ、分かる。
今の微笑みは、嘘のものであると。
表情を動かすことが苦手な癖して、必死で微笑んだ。それがとても痛々しくて、全てを諦め人形のように生きていた幼い頃の実妹と重なった。
何を思い、そんな顔を見せたのか。
想像したところで答えは見つからないが、此方を見つめる彼の瞳は以前と変わらない真っ直ぐな琥珀だった。
彼は、この世界の人間ではない。
そのせいか、以前から若干の距離を感じることは分かってきた。
そして、彼の口から彼自身のことをあまり聞いたことも無い。
いつまで経っても彼は謎のままで、それが彼が"白"であることを証明出来ない理由となっている。
僕は彼を信じたい、そう思っている。
けれどやはり、ずっとこのままでとはいかない。出来ない。
「ごめん、」
そう呟いた。それは一体、何に対しての謝罪なのか。
理解してあげられないこと。
力になってあげられないこと。
これから起こること。
____君を、信じ切れていないこと。
その全てなのだろうか。
彼はキョトンとした顔でまた此方を見つめる。
僕も、覚悟を決めなければいけない。彼の瞳を受け止めて見据え、そしてハッキリと言わなければならない。
静かに深呼吸をして、僕は漸く顔を上げた。
「____二日前…中央庁から、君の尋問を要求されたんだ。」
意を決して振り絞った声は、やはり震えていた。多分、今僕の顔はとても見れたものでは無いだろう。後悔と、悲しみと、苦しみと。全部の思いがグチャグチャに混ざってきっとみっともない顔をしている。
そんな僕の顔を、少し驚いて目を見開きつつもやはり彼は顔色ひとつ変えずに見つめていた。
そして、少しの沈黙を経て彼が口を開いた。
「……____分かった。」
射抜くような力強い瞳。
(嗚呼、この瞳。)
その瞳に見つめられると、やはりどうしても彼を信じたいと思ってしまう。
僕としては、信じたいのだ。これは本心だ。けれど、"室長"としての自分が邪魔をする。
悔しい、悔しい、悔しい。
それでも、皆を守る為に僕はここにいる。
だから____
「____ごめんね。」
そんな我儘な酷い懺悔に、彼はまた下手くそに微笑んだ。
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雪音(プロフ) - 餓羅鑼さん» コメントありがとうございます。マイペースですが更新頑張っていきます。 (2021年6月14日 6時) (レス) id: 8e077a453c (このIDを非表示/違反報告)
餓羅鑼 - 続編万歳ですっっ!!更新楽しみにしてます! (2021年6月14日 0時) (レス) id: 23f9dcf647 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪音 | 作成日時:2021年6月13日 21時