太陽は眩しく笑う。1【煉獄杏寿郎】

ー ページ8

ー







「はい。そういえば、あなたの名前は？」


『……』


「…？」



名前…

私の名前…


名前を聞かれ、黙り込む私にしのぶさんは不思議そうに首を傾げる。


言いたくないわけでもないんだけどね。

ただ、名前なんてあまり聞かれもしないし呼ばれもしないから。



『A、です』



私が小さい声でそう言うと、しのぶさんは繰り返して「Aちゃん、可愛らしい名前ですね」と小さくて優しい手で私の頭に触れた。



『…っぇ、』


「…どうかしましたか？」


『……い、や…』


「……？」


『……そ、の………名前を、呼ばれるのも…撫でられるのも…嬉しくて…、』



さっきも言ったけれど、名前なんてずっと呼ばれていなかったし昨日からずっと与えられている優しさに心臓がぎゅうってなるくらいに嬉しくて。



「ふふ、私でよければたくさん名前も呼びますし撫でますよ」



そんな風にまた撫でてくれるしのぶさんに、心がぽかぽかと温かくなって。なんとも言えない感情が駆け回り色んな感情が混ざって。



『…っ、』


「…Aちゃん？」


『へっ、』


「泣いて、」



気付けばポロポロと溢れ出していた涙に、自分でも驚いて俯いた。


見せたくない。


こんな風に優しくしてもらった上に、迷惑をかけるような事は…



『……っ泣いてません、』


「…………そうですか？」


『はいっ…』


「ふふ」


『…っ、』


「じゃあ少しだけ…、私がこうしたいので失礼しますね」


『ーっ！？』



しのぶさんのそんな言葉が聞こえた時、私はいつの間にか温かさに包まれて。歪む視界で少しだけ見えたのは綺麗な色の羽織。


…抱き締められている？



『…しのぶ、さん、』



離れようとしても、しのぶさんは「少しだけ」と私をその細い腕で抱き締めそして変わらず私の頭を撫でてくれて。







ー

ー→←ー

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す