遠い花の香り (ページ9)

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あたふたしている私に気付いた運転手さんは心配そうに口を開いた。

運転手「お客さん、大丈夫ですか？ゆっくり探してもらって構いませんから。私は時間なら十分余ってるんで」

自分の父親ほどの年齢であろう運転手さんは優しい言葉をかけてくれた。

「ほんとすみません。確かポケットに入れておいて…あっ、一回落として拾ってからどうしたんだろ？」

持っていた鞄の中も探してみたが、キーホルダーも何も付けていなかった鍵は小さいせいか見つからない。

もしかしてお店に落としたのかもしれないと思い、運転手さんに少し待ってもらいたいと断りを入れて、さっき送別会をしていたお店の電話番号をケータイで検索してかけてみる。

しかし、お店の座敷にも私が休憩していた場所にも鍵は落ちていないようで、店にも落とし物は届いていないという。

一人暮らしをしている私はこのまま家に入れなければどこかで一夜を過ごすしかない。

誰かに助けを求めようと考えを巡らせるも祐子は明日早いし迷惑になるだろう。増田くんは上司と二次会の最中だろうし…消去法で残るは小山くんしか頼れる人はいない。

ダメ元で小山くんに電話をかけるとすぐに出てくれた。

小「もしもし？無事に着いた？」

「うん、着いたんだけどね、鍵無くしたみたいで家に入れないの。小山くん、どうしよ？！」

小「えぇ？！大変じゃん！…まだもしかしてタクシーの中？」

「そう、待っててもらってるの」

小「だったら家に来たらいいよ。夜も遅いし一人にしとけないから」

思わぬ返事にケータイを押しあてている耳元が熱くなる。

「…いいの？」

「全然いいよ。待ってるからさ」

その言葉に甘えて運転手さんに申し訳ないけれど、さっきのマンションまで戻って欲しいと告げると、嫌な顔ひとつせずに了承してくれた。