嘘でできてる。【宮侑】

４３ ページ44

別れたかったんじゃん、と彼女は頬を膨らませて眉をひそめた。小さい手には温もりが残っていてその顔を緩ませるような温かさだった。可愛らしいその顔を見て今にも窒息してしまいそう。


合宿じゃなかったらきっとキスもハグもずっとした。彼女とはキスをしたことがない。頬や額にはあるけど唇にはしたことがない。


「唇青いやん」


足を止めて俺はAの顔をのぞきこんだ。


「侑のせい」


彼女の唇は小さく動く。


「温めよか？」


「……どうやって」


知ってるような顔つきで俺を見つめた。俺はAにキスをした。一瞬だけ。Aは真顔のままぼーっと前を見ている。


「治」


Aがぽつりと発した言葉。Aの目の前には治がいた。治は唖然として俺たちを見ている。その目には大きな涙が溜まってる。治が泣いているように見える。


「つむ達またより戻したんか？」


治は泣いていなかった。


「戻した」


俺がぶっきらぼうにそう答えると治はそんなんや。とつまらなそうに返事を返した。少しまゆを潜めた治にAが


「ごめん」


と一言。


「いや、いいんよ。幸せになれればそれでAもええやろ？」


治たちの会話の意味がわからなかった。


「お前今度A手放したら俺がもらうからな」


「手放さないから無理や」


Aは頬を緩ませた。


「どやった？ファーストキス」


俺がそう問いかけた。


「知らん」


Aは少しいやあからさまに恥ずかしそうな嫌そうな顔をして答えた。俺の手を離して先を歩いていくA。なんや、さっきまであんなべったりやったんに。

４４→←４２

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す