執行官ノ哀哭【PSYCHO-PASS】

03 : 貴方の為に涙を流すとは限らない ページ5

人質にドミネーターを向ける征陸の隣で、狡噛と冷泉は平然とした顔をしている。どうやら、今この場で人質の女性を救いたいと思っているのは常守だけらしい。

気付けば常守は、征陸にしがみついていた。


「あの女性(ひと)は保護対象です！」

「その為のパラライザーだろうが！今すぐ眠らせて確保するんだ！」

「彼女は混乱してるだけです！」


常守と征陸の攻防戦を尻目に、冷泉は女性が逃げた方向をじっと見つめていた。「行くか」狡噛が言えば冷泉は無言で階段を降りていった。


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「私上から行く」

「了解」


いとも簡単にコンテナの上へ登った冷泉の色の異なる双眸は、暗闇で鋭く、光を放つ。逃げ惑う女性、それを追う狡噛。見つけた冷泉は躊躇う事なく、女性にドミネーターを向けた。


〔対象の脅威判定が更新されました 執行モード リーサル・エリミネーター〕

「マズイねえ、あの人質」


手重い声色とは裏腹。冷泉の口元には弧が描かれていた。と、冷泉の視界の端に人影が写った。


「狡噛さん！………やめてください」


常守が抗っている間に執行してしまおうかと。冷泉の脳裏には浮かんだのだが。


「面白そうだし、傍観者気取っとこうかな」


そう冷泉が、ドミネーターを下げた直後。常守の甲高い悲鳴が響き渡った。そして、ひとりの男がバタンと倒れるのが見えた。狡噛だ。


「………あらま、執行されちゃったのか」


愛しい人を気絶させられた為、目をぱちくりとさせている冷泉。その割には、口調は淡々としている。そして思い付いたかのように、ドミネーターを再度持ち上げて。


〔対象の脅威判定が更新されました 執行モード ノンリーサル パラライザー 落ち着いて照準を定め対象を制圧してください〕

「HOUND0、執行完了」

〔………冷泉、狡噛を回収しろ〕

「了解。縢くん、手伝って」


冷泉は腰元のホルスターにドミネーターを仕舞うと、4〜5メートルはあるコンテナから飛び降りて狡噛の元へ。


「はっ。やられたねえ、慎也さん。でもやっぱり、面白い事になった」

「美護ちゃーん、来たよ〜」

「ん。ありがと」


縢とドローンに狡噛を託した冷泉は、地面にへたり込む常守を見て呟いた。


「あの子なら、私の退屈を紛らわせてくれるかもね」

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