執行官ノ哀哭【PSYCHO-PASS】

16：人は誰しも臆病 ページ18

「いってきます」

「いってらっしゃい」


慎也さんが私の頭を優しく撫でてくれた後、どちらからともなく唇を重ねる。

名残惜しそうに離れていく慎也さんに、思わず笑みが溢れた。


慎也さんを見送って、よし、と。私はロンTの袖を捲った。


「皿は洗ったから、洗濯と掃除だ」


ここ最近、私と慎也さんに非番はあったと言えばあったけれど、なかったと言えばなかったとも言える。非番でも容赦なく呼び立てられるから。宜野座さんに。

こう見えて綺麗好きな私は、毎日洗濯と掃除をしなければ気が済まない。だから洗濯と掃除はどれだけ帰りが遅くなってもしていたのだけれど。

やっぱり仕事から帰ってきて家事をするのは、キツイものがあり。大雑把になっていたのが否めない。


洗濯機を回している間に、掃除に取り掛かる。床はコンクリートだからあまり埃は溜まらないなんて思ってちゃ駄目ですよ。結構溜まるんですからね。

特に慎也さんなんて、サンドバッグ蹴り回すからさ。埃立ってしゃあないんだよねえ。そんな所も好きなんだけど。

私はサンドバッグ蹴らないよ。実践派だから。


「リビングと寝室、掃除完了。洗濯物干したらあとは、資料室の掃除だけか」


洗濯物は悲しいかな部屋干し。職業柄、ベランダなんてものは無い。辛い立場だよねえ。思ってないけど。


「さて。資料室の掃除するか」


資料室は、慎也さんの“全て”が詰まっている。と、私は勝手に解釈している。あながち間違いでは無いだろう。

それにしても慎也さんは、何故私が資料(ここ)に入る事を許してくれるのだろうか。訊けずじまいだ。

いや違う。私は訊きたくない(・・・・・・)だけ。訊くのが怖いんだ。


「………考えるのやめよ」


デスクに積み上げられたファイルを持ち上げたら、視界の隅で何かが舞うのが見えた。はて、と。視線を足元にやる。


あ、と。声が出た。


「こんなところにあったんだ」


持ち上げたファイルを再びデスクに置いて、それを拾い上げる。


「ふふ。懐かしい」


それは、私と慎也さんと宜野座さん。そして、陽気にピースをする短髪の男性が写る、写真だった。

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