玖 ページ9
本来、鬼は睡眠をとる必要がないのにも関わらず暇を持て余した桜妃は夢を見ていました。
それは、桜妃が愛してやまない無惨の夢。
それは、美味しいご馳走の夢。
それは……いつかの自分の夢。
無惨と出逢う前の記憶でした。
──────────
「ごほっ…」
琴枝、以前の桜妃は呼吸器が弱く、肌も、ちょっとした事で蕁麻疹が覆い尽くすような身体をしていました。
そんな彼女を見て、何時も家族は云うのです。
「可哀想に」
その言葉が、どこか他人事のような気がして琴枝は嫌いでした。
それでも、歳を重ねる事にどんどん、内側から壁を壊されていくように彼女の命の灯火はか細く、衰弱していきます。
自分の人生において可哀想、という言葉は付き物なのだと己に信じ込ませた矢先。
琴枝は病に倒れました。
医師の口から告げられたのは、もう長くはない。という、誰もかれも裏切るような一言でした。
可哀想、可哀想、可哀想、、、
好き勝手言われることに嫌気がさした彼女は何もかも隠してしまうように身を丸めて、家を飛び出したのでした。
そこでたどり着いたのは物語のはじまり、桜並木でございました。
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作者名:白桃。 | 作成日時:2020年1月12日 14時