桜並木で【鬼舞辻無惨】 (ページ12)

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拾弐ページ12

｢桜妃。気づいていないかもしれないが、お前の中には琴枝の心が残っているのだ。そいつは、私の神経を酷く逆撫でする。現に、お前は其奴の記憶に引っ張られ、とち狂った狂人のようになっている。｣
桜妃はなぜか心臓が、思い切り掴まれたかのようにひどく痛むのを感じた。

否、本当に無惨の手は彼女の身体を貫いている。深く、深く。
鬼独特の爪の長い手で、何かを探すようにぐちゃぐちゃと、気味の悪い音をたてながら。
｢む、無惨、さま…？｣
手が、止まった。
無惨の顔はとても不気味に歪んで、桜妃を見ている筈なのにどこか遠くへ意識を飛ばしているようにも見えた。
｢ぐっ…｣
無惨は、まるで鬱陶しい虫を潰すかのように何かを掴んで拳に力を込めます。
くるしい、くるしい、くるしい。

琴枝は、この物語の語り手であるわたくしは、その圧力に抗い続けました。
懸命に。最期まで。
────みちっ

何かが潰される音。
その瞬間、明らかに桜妃に変化が訪れた。
今まで感じていた不安、恐怖、全てが取り払われたのだ。

琴枝の記憶と意識を引き換えに。