31.「見てろよ！」 ページ31
.
.
『どうも。人間に見えるけど人間じゃない者です』
『…はい？』
.
.
そう言って、いきなり私の前に現れたアナタは
夏の終わりに私に酷い傷を残した。
.
.
夕飯はもったいなくて食べられなかった。
ラップをしたまま、明日の朝に食べようと思った。
.
.
生きた屍のように、ソファに寄りかかってぼけっ…と窓の外を眺める私。
カズがいたらなんていうだろう。『動けや！』とか怒るのかな。
.
.
「はは…」
.
乾いた声でそう笑うと、それをまるで待っていたかのように
いきなりジャーン！と部屋中に音楽が鳴り響いた。
.
.
「……はっ！？」
.
.
へ、なに！心霊現象！？
勘弁してよ！と思って身体が強張る。
ジャーン！と鳴ったあと。すぐに、綺麗な音色が流れた。その音色の出処は
.
.
「あ…」
.
.
テレビだった。
.
.
どうやらタイマーがセットされていたらしい。いきなり目の前のテレビが点いて
真っ暗のまま。なに…？ってしばらくテレビを凝視していると。
.
.
…その人は、突然現れた。
.
.
カズ『これ見えてんの？おーい！Aさーん！泣いてんの？泣いてばっかいんなよ！』
「は…？」
カズ『これ、録画ね。ビデオカメラで撮ったのを、ちょっと機械同士いじりあって、タイマーセットしたんだけど』
「…？」
カズ『見えてる？映ってる？おーい！』
.
.
ひらひら、と手を振って笑うカズ。
そんなカズが座ってるのは、今私が座ってるところ。
どうやらビデオカメラで、今日の昼間撮ったものが今テレビに流れているらしかった。
.
.
私は涙を止めて、じっ…と見つめる。
カズが、そこにいる。
.
.
カズ『えーっと…。言いたいこと、沢山あるんだけど。言うより』
カズ『あなたが望んでた、歌を歌ったほうが早いから歌います』
.
「は…？」
.
頑張る！と気合を入れた画面の向こうのカズは、ギターをどこからか取り出して
見てろよ！と私を指差す。
.
.
ーーー…あの夜。
眠り際に、「歌を作って」というあの約束を。
カズは、守ろうとしている。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2353人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
