27.蒸し暑さの中、あなたの素肌 ページ27
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夕方になると街の輪郭が見える。
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「待って…」
カズ「待てない」
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結局、水族館に行ったところで魚を見たのは水中トンネルだけで
飽きることなく、ずっと口づけを交わしていた私たちを包み込む空はキャラメル色を浮かべて
カズは何も言わないまま、私の手を握って水族館を出た。
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帰る最中、彼は一言も言葉を発さなかった。
だから、私も発さなかった。
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手は、ずっと握られたまま。
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カズのしょっぱい味がする唇を噛んで、家に戻って。玄関で靴を脱いで
夕暮れが差すリビングまで歩いていくと、無言で私を寝室へと誘った。
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私だって子供じゃない。
展開は分かった。分かったけれど
わからないふりをした。
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クーラーもつけない、蒸し暑い中
彼は私を宝物のように優しく扱った。
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彼は最中、何度か私の名前を呼んだ。
ゆらゆら陽炎が揺れる中
私は彼に必死にしがみついた。
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人間の肌と何一つ変わらない、彼の素肌は温かくはなかったけれど
とても優しい香りがした。
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カズ「……俺、もっと早くあなたと出逢いたかった」
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何もかもが終わった後
空は暗闇を浮かびあげて、電気はつけないまま。クーラーもつけないまま。
ふたり、蒸し暑い中。汗はまだそのまま。
ただただ白い天井を眺めて、彼は口を開いた。
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「……え？」
カズ「…俺、記憶はないけど感情はあるって言ったでしょ」
「……うん」
カズ「データを探ったら俺の使用者で女の人はあなたが初めてなの」
「……そ…なの？」
カズ「もっと早くAと……」
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微睡みの中、カズの少し高い声を耳に流す。
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カズの歌とかあればいいのになぁ。
俺の歌？
そう。歌える？
歌唱力はあるよ。アンドロイドだもの。
なんかギターとかで歌作ってよ。
ヤダよ。
そうしたら…、ずっと耳元でカズが歌ってくれるでしょう？
…そうね。
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素肌のまま、私はそんな会話を繰り広げて
彼の隣で、甘い夢の中に潜り込んだ。
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