13.「おかえり」と動く唇 ページ13
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私は定時キッカリに会社を出た。
なんだか早く帰らなきゃならない気がした。
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夏の夕暮れ。どこかセンチメンタルにさせるそれを背負いながら
カツカツと突進するように家路を辿った。
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もしかしたら家に帰ったら、カズがいなくなってるんじゃないか。
もしかしたら、もう回収されてしまったんじゃないか。
機能しなくなってるんじゃないか。
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そう思うだけで胸騒ぎがして、嫌な汗がダラダラ流れる。
もし、カズにその汗どうしたの？と聞かれたら
夏のせいだ、と答えるつもりだ。
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エレベーターがフロアについて、比較的すぐにある私の部屋の鍵穴にガチャリと鍵を差し込む。
ガチャ、と音がして解錠される音がした。
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「カズ！？ただいま！」
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大声を張っても帰ってこない返事。いつもなら「おかえりA」って玄関に迎えに来るのに。
まるで忠実な犬のように。なのに、今日はいない。いないどころか返事さえも返ってこない。
サァーッ…と血の気が引くのがわかった。
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「カズ！？カズ！！ ただいまってば！」
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何十年生きてきて、今日が一番乱暴な靴の脱ぎ方をしたと思う。
パンプスをもう投げつけるように玄関に落として、カバンはそこら辺にテキトーにほっぽり投げた。
バタバタと走って、リビングの扉を開く。そこには
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「かず……」
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カズの姿は、なかった。
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いつもならキッチンに立ってるか、テレビを見てゲラゲラ笑ってるか
洗濯物を畳んでいるか。とにかく主婦のように過ごしているのに
カズの姿はなかった。
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「やだ……、…っ…ゃだっやだやだ」
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じわ……とゆっくり視界が滲んでいくのがわかる。まだ3日目じゃん。あと4日あるじゃん。
なんでいないの…、なんでって心の中で問う。それでもその答えは出てくれない。
ぽろん、って一粒。涙が溢れて「かず…」って呟いて、てくてく…と洗面所へと向かう。
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お風呂に入ってしまおう。この涙は、シャワーと同じように流してしまおう。
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そんな気持ちを抱いて、洗面所へ向かう。
すると
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カズ「おかえり」
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お風呂の扉が、開いた。
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