. ページ6
何となく、Aはそういうのをあんまり言わない人なんだと思っていた。興味がなさそうだったから。そもそも人の容姿に対する頓着すらないような人だったから。だから多分、着る服も自分の顔にも興味がないんだろうなって、そんなふうに。
人の服装にも髪型にも何も口を出さないし、だからこそどんな自分でも受け入れてくれそうな安心感みたいなものはあるから、そこに救われている部分もないわけではないけれど。
だから少し、不思議だ。Aの口から可愛いとか、そういう言葉が聞こえてくるのが。
黙り込んだ自分のことを不思議に思ったのか、いつの間にやら此方を振り返っていた大きな瞳と目が合った。
日の光の射し込むそれが、虹をかけたように光を纏う。
太陽の下だといつもよりずっと綺麗に見えるから、こういう晴れた日が好きだった。
長い睫毛が不思議そうに瞬いたあと、微かに唇が動く。
「なに？」
JH「…いやなんか、珍しいなって」
「うん？」
JH「かわいいとかあんまり言わないじゃん」
此方を捉えていた明るい両目が、すっと視線を横にずらした。どこか宙を眺めながら、また何度かぱちぱちと瞬く。
しばらく隣にいて気づいたことと言えば、Aは何かを考え込むとき、どこか空中をじっと眺める癖のようなものがあるっていうことだった。
視線はその場所を定めたままで、整った横顔の後ろに青く広い空が続く。なぜだか目が離せなくなった。
「心では思ってるけど。いつも」
JH「言えばいいのに」
「取っておいてるんだよ、心の中で」
JH「じゃあいつ言うの」
「取っておくのが勿体なくなったとき」
静かな声が空気を伝う。
押し続けたカートが小さく揺れるとき、Aの頭も同じようにふと揺らぐのを見ていた。
"取っておく" なんて言い方をしながら、本当はそこに閉じ込めているだけで、もとから出すつもりなんてなかったんじゃないかと考えたりもする。
だって。自分が愛してるって言おうが、Aは何も返してくれないし。
自分が手を伸ばしても、それに気づかないことのほうが多い。弟たちには頭を撫でたりするくせに。
JH「それでも俺がサランへって言ったら答えてよ」
「…ああ、あれ答えないといけないの？」
JH「あに、答えないでどうするの。一方的じゃん」
「片想いのほうが楽しいとかって言うじゃん」
JH「やーA、」
「あはは」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 750人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
をる(プロフ) - Kさん» コメントありがとうございます😭！！拙い文ですが楽しんでいただけているようで本当に嬉しいです。これからも見守っていただけたらと思います、ありがとうございます🙇 (4月3日 19時) (
レス) id: 8d863670a1 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - いつも読ませて頂いております！素敵なお話ありがとうございます。無理なさらずこれからも応援しています☺︎ (4月3日 11時) (レス) @page25 id: 64e289b1e8 (このIDを非表示/違反報告)
をる(プロフ) - こころさん» わー！！コメントありがとうございます😭本当に励みになります、嬉しいです。この先も楽しんでいただけたら幸いです！ (4月3日 2時) (レス) id: 8d863670a1 (このIDを非表示/違反報告)
こころ(プロフ) - 書き方がすごく好みです❤︎これからも楽しみにしています！ (4月3日 2時) (レス) @page25 id: ff02d19e18 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：をる | 作成日時：2024年3月25日 3時
