しあわせを紡ぐ人｜2016｜HS. ページ1
会社内にある音響スタジオ。
廊下を歩いていたら微かに歌声が聞こえてきて、扉を開いて覗いてみたら、案の定、楽器に囲まれたそこに一人で座り込んで歌を紡ぐAの姿が見えたから、ちょうど足を踏み入れたところで。
携帯に繋いだイヤホンを片耳に付けたまま、右手に持ったボールペンのペン先をとつとつ、とリズムを刻むように机に叩きつけている。
きっと気付いているんだろうけど、近寄った自分に対するそれらしい反応は特に何もなかった。少しだけ寂しくてその黒髪に触れてみたりもしたけど、それでもその身体が此方に傾くことはない。
HS「…なにしてんの」
「ジフニの頼まれごと」
HS「あー、作詞の？」
「うん」
その隣に身を寄せて覗き込んでみると、平然とした返事だけが返ってきた。机上に広げられたノートは新品のようにまっさらで、何も書かれていない。
何やら集中しているなと思ってはいたけど、聴いていたのはジフニに貰ったデモ音源らしい。
つい今朝、作業室で暗がりの中、ジフニが煌々と光るパソコンの画面に向かって色々とぼやいていたのを思い出した。
Aがどうの勿体無いだの、あの様子は何日か眠れていないんだろうと思って、昼食を届けるついでに無理やり寝かせてきたところなんだけど。
HS「ジフニがさ、めちゃくちゃ悔しそうにしてんの知ってる？」
「知らない」
HS「できるんだから曲書いて出せばいいのにって、作業室でパソコンに向かって永遠に嘆いてんの。亡霊みたいに」
「ああ、可哀想だな」
HS「わあ、棒読み」
「気のせい気のせい」
普段より一段と抑揚のない、淡白すぎる機械的な返事が軽々と投げ返されて。長い指の上をくるくるとペンが回り始めたのを見て、多分これは乗り気じゃないんだろうなとわかった。
空いている椅子を引っ張り出して、Aの隣に腰を下ろす。
HS「なんか色々作ってなかったっけ？練習生のとき」
「あれは全部適当だよ。ほとんど遊び感覚だったし」
HS「作り直して入れたらいいのに。次のアルバムとか」
「嫌だ」
HS「…いや、そんなに？」
やけにはっきりとした物言いのそれに、思わず首を傾げた。
Aがここまで言うのは、かなり珍しいような気がする。
不思議に思ってその顔を覗き込んだけど、いつも通りの作り物みたいなきれいな顔がそこにあるだけだった。
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をる(プロフ) - Kさん» コメントありがとうございます😭！！拙い文ですが楽しんでいただけているようで本当に嬉しいです。これからも見守っていただけたらと思います、ありがとうございます🙇 (4月3日 19時) (
レス) id: 8d863670a1 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - いつも読ませて頂いております！素敵なお話ありがとうございます。無理なさらずこれからも応援しています☺︎ (4月3日 11時) (レス) @page25 id: 64e289b1e8 (このIDを非表示/違反報告)
をる(プロフ) - こころさん» わー！！コメントありがとうございます😭本当に励みになります、嬉しいです。この先も楽しんでいただけたら幸いです！ (4月3日 2時) (レス) id: 8d863670a1 (このIDを非表示/違反報告)
こころ(プロフ) - 書き方がすごく好みです❤︎これからも楽しみにしています！ (4月3日 2時) (レス) @page25 id: ff02d19e18 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：をる | 作成日時：2024年3月25日 3時
